左から)TBSテレビ取締役龍宝正峰氏、同DX戦略部福田雛子氏、同ICTセキュリティ戦略部兼DXコンテンツ部住友永史氏

07 SEP

TBSが米デジタル広告プラットフォーム「One Platform Global」に参画した狙いとは? 【TBSインタビュー前編】

編集部 2023/9/7 08:00

広告のグローバル展開を見据えて、TBSテレビが新たなチャレンジに乗り出す。米国NBCUniversal社が今年10月から運用開始予定のデジタル広告プラットフォーム「One Platform Global」に日本から唯一の国際ローンチパートナーとして参画することが決定した。この国境を超えた広告ビジネスプロジェクトにTBSテレビが加わる狙いは何か? TBSテレビ取締役龍宝正峰氏と同DX戦略部福田雛子氏、同ICTセキュリティ戦略部兼DXコンテンツ部住友永史氏が説明した内容を前後編にわたってお伝えする。

■欧州最大手メディアRTLグループとの提携を布石に

――米国NBCUniversal社が主導する「One Platform Global」に参画することになった経緯から教えてください。

龍宝正峰氏

龍宝氏 3、4年ぐらい前でしょうか。将来的に海外の広告を日本に取り込むことができたら面白いかもしれないと、そんな話を欧米各国に訪問した際に話をし始めたことがそもそものきっかけです。日本の放送局では唯一、欧州のセールスハウス連合の会議に参加し、議論を重ねるなかで、欧州メディアグループのRTL傘下のメディアセールスハウスRTLAdAlliance社(RTLAA社、旧RTL AdConnect社)とは2020年に提携を結びました。RTLAA社のセールスチームを通じて、キャッチアップ広告在庫の欧米に向けた販売を開始した結果、実際にTBSとしては初めて国内ルート以外の広告主を配信で成立させてもらっています。こうした活動の積み重ねもあって、NBCUがアジアのローンチパートナーを考えた時に最もイメージしやすかったのがたまたま我々だったのではないかと思います。

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――NBCUniversalとの提携は今回が初ですか?

龍宝氏TBSは米国のCBSとニュース協定を結んでいますが、NBCUniversalとはそういった関係はなく、提携という意味では初めてです。もちろんこれまでNBCUniversalともABCともコミュニケーションを図ってきました。海外向けセクションのDX部門が中心に進めていき、NBCUniversalが動くタイミングで我々も動いて、良い形でお互いの網に引っ掛かったのだと思います。番組の海外販売をメインに行っていたDX戦略部が営業分野という新しいコミュニケーションに首を突っ込んでやってみた話でもあります。

――DX部門はRTLグループやNBCUniversalとの関係値をどのように築いていったのですか?

福田氏前任者が 2018年に欧州のセールスハウス連合の会議に参加したことから、RTLグループなどと欧米との広告ネットワークが広がっていったと聞いています。実際のRTLとの、契約手続きは、海外渡航が難しかったコロナ禍だったこともあり、先方の担当者と一度も会わずにオンラインで進めていきましたが、最終的にまとまったのは、既に信頼関係があったことが大きかったと思います。そして、今回、NBCUniversalとのパートナーシップ契約は、RTLとの提携が良い布石になったと実感もしています。

福田雛子氏

住友氏NBCUniversalとの取り組みは福田と共に私も担当しています。初めのきっかけとも言える欧州のセールスハウス連合の会議では、テックジャイアントなどに脅かされている状況に対する対処方法などが主な議題です。欧米の放送局も日本の放送局と同じような状況であることがわかる話です。こうしたディスカッションの場にTBSが参加し、意見交換を通じて、欧米との関係値が構築できたのではないでしょうか。

■キーワードは「ワンストップ広告セールス」

――今年6月にフランス・カンヌの「カンヌライオンズ」で発表された「One Platform Global」ローンチパートナーには、TBSのほか、欧州グループのSky Media、スペインの大手メディアAtresmedia、オランダのTalpa Network、フランスのTF1 Group、カナダのBell Media、オーストラリアのSeven West Media、アメリカのOmnicom Media Groupが含まれます。世界各国の主要な放送局やメディア企業が参画しているのは、国境を超えて広告のエコシステムを強化していこうとする目的意識があるからでしょうか。

龍宝氏広告の観点で、今は放送局対Google、Amazonという構図が作られています。言うなれば、放送局が一番得意にしていた広告領域に踏み込まれ、ひっくり返されている状況です。コンテンツのグローバル展開こそ始めていますが、広告のグローバル展開もローカルな存在である放送局自らやっていこうということだと思います。NBCUniversalはそのフロントに立ち、アメリカベースのクライアントを世界中に発信したいという狙いがあります。その中に我々は入れていただいたのです。

福田氏「One Platform Global」の1つのキーワードにあるのが「ワンストップ広告セールス」です。国境を超えて、広告在庫の種類も超えたシステムが今の時代には必要です。GoogleやAmazonは既にワンストップで行っていますから、クライアントが広告枠を買いやすい状態にするのは当然の流れです。「One Platform Global」はビハインドにいる放送局同士が協力したコンソーシアムのような組織だと言えます。

■米国ビデオ広告サーバ大手 のFreeWheel社と

――「One Platform Global」はNBCUniversal社が2020年から米国市場向けに提供していた機能を拡張する形で展開すると発表されています。NBCUniversal社の子会社FreeWheel社が手掛ける広告管理ソリューションに参画することへの価値はどのように考えていますか?

住友永史氏

住友氏FreeWheel社は欧米のビデオ広告サーバ市場において、非常に高いシェアを占めています。 聞くところによると、ディスプレイ広告では圧倒的なシェアを持つGoogleの出身者が、放送局が求める高い品質・精度とテレビ広告ライクな管理機能を持つ、ビデオ広告に特化した新しい広告サーバを提供しようとFreeWheel社を立ち上げています。放送局に今後求められる新しい広告関連の技術力がFreeWheel社にはありますから、今回の取組みを通じて技術の最新トレンドや情報を取り入れやすくなることに期待しています。たとえば、日本の中でも話題としては広告付き無料ストリーミングのFASTへの関心が集まっています。もちろん、計測に関しては海外と日本では違いがありますが、放送とデジタルの両面から技術全体の土台を考えるきっかけにもなると思っています。

――今秋から運用が開始され、実際に取引できるように今はどのような準備が進められているのですか?

龍宝氏NBCUniversalからは今年の10月にローンチする予定であると聞いています。どちらかというと日本式の広告フローではなく、グローバルのフローに合わせていかないといけないので、その辺りを社内で詰めているところです。日本は世界の中でガラパゴスという状態でもあり、グローバルの案件に入っていくことは意味のあることになると思っています。B2Bの1つの可能性として、国外からの広告収入を得ることを考える今は研究段階です。

――グローバル連携によって競争力を高めていくことを目指す「One Platform Global」の具体的な活用イメージについても3氏から説明が続いた。後編に続く。

TBS参画グローバル広告プラットフォーム「One Platform Global」がテレビを再価値化する理由【TBSインタビュー後編】