STV地域ドラマからK-DRAMAまでプロモーション合戦も復活~「香港フィルマート2023」レポート後編~
編集部 2023/6/2 08:02
アジアのエンターテインメントコンテンツの勢いを味方に、4年ぶりにリアル開催された「香港フィルマート2023」が活況を呈した。3月13日から16日までの期間中、地元香港の映画スター80人が集結したプレス発表をはじめ、韓国俳優を登用したプロモーションも目立った。日本においては札幌テレビ放送がアイヌのショートドラマの上映会を実施するなど、地域発コンテンツを促進する場が復活した。前編、中編に続き、現地取材レポートをお届けする。
■脱キョンシー目指す、香港ホラー新人監督
今年の「香港フィルマート2023」は開催地である香港の映画産業がここにきて上昇基調にあることも話題の中心にあった。最大手のエンペラー・モーション・ピクチャーズは創業者の楊受成会長も出席するなか、ジャッキー・チェンやニコラス・ツェーやトニー・レオン、アンディ・ラウなど香港を代表する俳優を一挙に集め、総勢80人が登壇するプレス記者会見を開き、会場を沸かせた。「香港フィルマート」の復活を印象づけるものになっていた。
また会場内で同時開催される恒例イベントの1つで、アジアの映画製作者が世界各地の投資家や配給会社などに対して企画プレゼンする「香港アジア映画投資フォーラム(HAF)」では、大御所プロデューサーと新人監督が組むケースが香港発プロジェクトの特徴にあった。
現地で話が聞けたファン・カーチュン監督とフランキー・リー監督は共にテレビの現場で10年以上経験を積んだ後、映画業界に転身したというキャリアを持ち、それぞれ自身初となる長編映画の実現に向けて製作資金の調達を図っていた。
香港の街を舞台にしたホラー作品『Stair‐away』を手掛けるカーチュン監督は「かつて香港で『キョンシー』のようなコメディ要素を交えたホラー映画が人気でしたが、近ごろはホラー映画の数そのものが少なくなっています。だからこそ映画の原点でもあるホラー映画に挑戦したい。映像技術にこだわり、ミステリー要素のある新たな香港ホラーで勝負する」と、力強く語る。プロデューサーのテディ・ロビン氏からサポートを受けることができた体制も心強いという。
またリー監督は、フルーツ・チャンプロデューサーのもと、作品『Kapok』において人生の価値観をテーマにする。「HAFの商談ではアート系に強いフランスのプロデューサーから感触を得ました。今後も各映画祭で商談を進めていきたい」と話す。この2人の新人監督からも香港映画業界の熱気を垣間見ることができたように思う。
■イ・ジェフンら韓国俳優によるプロモーション
リアル開催が復活した「香港フィルマート」をフル活用していたのは、地元香港だけではなかった。注目度を最大限に集めるプロモーション手法を得意とする韓国が出演俳優、女優を来場させて、華やかに「K-DRAMAショーケース」を企画していた。
「K-DRAMAショーケース」はKOCCA(韓国コンテンツ振興院)が主催し、韓国VFXスタジオのWESTWORLDパートでドラマ『LOOK AT ME』主演俳優のイ・ミンギ(JTBC『私の解放日誌』)と女優のハン・ジヒョン(SBS『チアアップ』)が来場した。
アン・サンフン監督によるビデオメッセージでは制作の裏側について触れ、「この作品は韓国の美容整形の表と裏を丁寧に扱います。多様な美意識をテーマにしたストーリーとVFX技術が見どころにあります」と説明があった。Netflix で全世界配信されたスクールゾンビドラマ『今、私たちの学校は…』やホラーサスペンス『Sweet Home -俺と世界の絶望』などヒット作を手掛けるWESTWORLDのVFX技術にも関心を集める場となった。
また香港最大手の通信系PCWWグループ傘下のストリーミングプラットフォームで、市場シェアトップに位置づける「Viu」オリジナルコンテンツの発表においても韓国俳優の来場があった。
『シグナル』などを代表作に持つイ・ジェフンを起用したドラマ『タクシー・ドライバー』のシーズン2の発表が行われ、イ・ジェフン本人を交えてトークセッションをはじめ、同作がいかにViuが展開する地域で新規加入をけん引する強力コンテンツであることを説明していた。韓国コンテンツが国際マーケットにおいて引き続き話題の中心にあることを象徴するものでもあった。
■STVドラマ「Tumsi」上映会に100人来場
日本発コンテンツもフォーカスされる場面はあった。札幌テレビ放送が制作したショートドラマ『Tumsi(ツムシ)』のプレミア上映会が行われ、香港フィルマートに参加するプロデューサーやディストリビューターなど約100人の来場者を集めた。
この作品は札幌市アイヌ施策課令和4年度予算事業のプロポーザル方式で選定されたもので、「アイヌの今を知ってもらい、文化を伝えるもの」が作品テーマにある。
担当する札幌テレビ放送コンテンツビジネス部担当部次長の菅村峰洋氏は「役者は全て札幌在住者。地元の劇団と組んで脚本を仕上げ、35分×2本のショートドラマを完成させました。世界に向けて売り出していくためには幅広くアピールすることが大事ですから、今回この香港フィルマートで上映する機会を作りました」と説明する。
英語のほか、中国、韓国、タイ、フランス語に対応した字幕を付け、YouTube配信では既に中華圏から200万回のインプレッションを記録し、反応を得ている。上映会での反響も上々だった。先住民族としてのアイヌにフォーカスした内容に興味を持たれたという。
「これまで札幌テレビ放送が扱う海外セールス用のコンテンツは旅ものが多く、ニーズのあるドラマを自社制作する良い機会にもなりました。これまでの海外展開のノウハウを活かしたかたちとも言えます。今後、東京のTIFFCOM、シンガポールATFにも出展し、セールス活動を進めていきます」と、地域コンテンツの海外展開をリードしてきた菅村氏から具体性のある言葉が続いた。
香港や韓国が打ち出したプロモーションと比較すると、決して派手なものではなかったが、「香港フィルマート」を活用する日本の地域コンテンツの継続性こそ価値があるように思う。各地域のフィルムコミッションが集結したブースでは、札幌フィルムコミッションが支援したNetflix 日本発ヒット作品『First Love 初恋』にも反響があったことを確かめた。
全体の取材を通じて、多様性のあるアジアマーケットに合わせた多様な活用が「香港フィルマート」にはあることも改めて実感した。4年ぶりの復活のタイミングに相応しいほどの活気が戻り、アジアコンテンツ市場に追い風を吹かせることができたのではないか。