吉本興業のチーフプロデューサー村本陽介氏(左から2番目)
アジアエンタメの波を起こす韓国、インド、タイ、日本にフォーカス~「香港フィルマート2023」レポート中編~
編集部 2023/6/2 08:01
アジアのエンターテインメントコンテンツの勢いを味方に、4年ぶりにリアル開催された「香港フィルマート2023」が活況を呈した。3月13日から16日までの期間中、業界最注目の韓国とインド、タイが海外展開を成功させている理由に迫るプログラムは目玉の1つにあった。日本からは唯一、吉本興業のチーフプロデューサー村本陽介氏がトレンドのリアリティショーについて語る場面も作られた。前編に続き、現地取材レポートをお届けする。
【前編】アジアエンタメの勢いを味方にしたトレードショーが完全復活~「香港フィルマート2023」レポート前編~
■アジアを代表する韓国、インド、タイにフォーカス
香港コンベンション&エキシビションセンターで開催されたアジア最大級の映画とテレビのトレードショー「香港フィルマート」に世界41か国と地域から7300人以上が参加するなか、会場内では展示会だけでなく、記者会見、ショーケース、サミット、セミナー、上映など各種イベントも同時開催された。4年ぶりのリアル開催となった今回、マーケットプログラムも香港フィルマートならではの独自色のあるラインナップを復活させていた。
「エンターテインメント・パルス」と称された会議シリーズでは、アジア間で今語るべきトレンドトピックを中心に取り上げ、業界のキーマンたちが登壇した。
初日に組まれた「スポットライト・カンバセーション:The Asian Wave in 2023 and Beyond」は目玉セッションと言えるもので、韓国CJ ENMコンテンツセールス部門のディレクターSebastian Kim氏、インドZEEエンターテインメントAPAC部門エグゼクティブVPのSanmesh Thakur氏、タイBECワールド国際ビジネスVPのZiraviss Vindhanapisuth氏の3名が並んだ。
韓国、インド、タイの3国はアジアの中でも、また世界の中でもエンターテインメント業界の成長が著しい注目国にある。OTT時代やコロナパンデミックを背景に、視聴者ニーズや国内の制作力がどのように変化しているのか、Varietyアジア支局チーフのPatrick Frater氏の進行で議論が行われていった。
タイBECワールドVindhanapisuth氏はタイ市場の現状について「コンテンツを収益化するために、多くのスタジオがマーケティングを重視しています。その主戦場はOTTです。タイ市場は確実にOTTにシフトしていることは確か。当然ながらウィンドウの変化も起こっています。コロナパンデミックの影響もあり、それは視聴者にとっても歓迎されていることだと感じています」と端的に話していた。
インドZEEエンターテインメントのThakur氏はこの数年、映画やドラマ制作のグローバル化が進んでいることに触れ、「以前はインド独自の手法で脚本作りを進めていましたが、欧米のOTTコンテンツが容易に視聴できるようになった今、それに対抗できるような作品が求められるようになっています。インドの制作現場はテンポよく、エッジの効いた重厚感のあるコンテンツを言及するようになり、ストーリーテリングの進化が起こっているところです」と力強く語った。
■韓国コンテンツが世界で成功する理由を語る
そして、もう1人の登壇者である韓国CJ ENMのKim氏はCJ ENMグループ傘下のチャンネルtvN作品のプロモーションを成功させてきた人物である。韓国コンテンツが世界ヒットする理由を語る言葉に熱が入る。
Kim氏は韓国コンテンツが各国でローカライズされていることを例に挙げ、「CJ ENMが手掛けた『I Can See Your Voice』はアメリカだけでなく、マレーシアやフィリピンでも人気があり、複数シーズンが続いています。またリアリティデートショー『ラブ トランジット』が日本で新たに展開されます(Amazonプライム・ビデオで6月配信予定)。韓国コンテンツそのものが各国で見られているのはもちろん嬉しく、リメイクによって収益化することも大事ですが、何より価値があると思うのは、各国のテイストに混ざり合ってハイブリット化し、アジア的なものに発展できるのが韓国コンテンツであることではないだろうか」と独自の考えを示した。
会場から受け付けた質問にも答えていき、「アジアのコンテンツが成功するために、欧米の視聴者をどれだけ重要視すべきか」という問いに対してKim氏は実感を込めて語った。
「今のところ韓国コンテンツの成功は、視聴者が拡大したことが大きい。世界中で視聴できる配信テクノロジーの発展のおかげでもあるわけですが、これによって欧米の視聴者が増え、これまでと違うテイストのコンテンツを作ることができるようになっていると思っています。以前よりも可能性を広げたストーリーを制作できようになっているのです」
実際に韓国コンテンツはアジア受けの良いラブコメや復讐ものだけでなく、スリラー系などジャンルの幅が広がっている。説得力のある説明だった。
■吉本興業の『バチェラー』プロデューサーが登壇
さらに会議シリーズ「エンターテインメント・パルス」では日本から唯一、吉本興業のチーフプロデューサー村本陽介氏が登壇する場面が作られた。
セッションタイトルは「Love Stories Wanted: Hype behind Dating and Romance Reality Show」というもので、村本氏は日本で絶大な人気を誇る恋愛リアリティショー『バチェラー』シリーズを手掛けていることから、欧米発リアリティショーをアジアでフォーマット化する際に「スタジオトークなどのローカライズされた構成」が求められることについて説明し、またリアリティショーの成功の秘訣として「キャスティングの大事さ」などについて語った。
また村本氏と共に登壇したNBCユニーバサル・フォーマッツのアジアフォーマットセールス&プロダクション部門バイスプレジデントLinfield Ng氏はアメリカ発デートショー『Baggage』を例に世界でヒットする恋愛リアリティショーについて、さらにタイTV ThunderのCOOを務めるNatakrit Wannapinyo氏はタイの文化に完全マッチした『Take me out』が男女の恋愛から同性愛まで多様なバージョンを扱い、タイ国内でロングヒットしている理由を語った。コンテンツアジアのJanine Stein氏の進行でトレンドの恋愛リアリティショーを3氏の間で意見が交わされた。
会議シリーズ「エンターテインメント・パルス」が取り上げたトピックはほか、エンターテインメント業界におけるWeb3の応用や中国アニメーション、香港映画界の現在を語るセッションも関心を集めていた。そして、アジアの勢いを伝える場面はプロモーション発表にも表れていた。後編に続く。