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「ファンづくり」のために本質を意識したコンテンツづくりを!メ〜テレがキャンプコンテンツを中心に多角的に取り組む「ハピキャン」事業とは?

編集部 2023/5/30 16:30

中京広域圏を放送エリアとする名古屋テレビ(メ〜テレ)が、キャンプコンテンツを中心に多角的な取り組みを行なっている。

同局が運営するキャンプWEBメディア「ハピキャン」は、キャンプ情報をはじめ、アウトドア、ライフスタイル情報を幅広く発信。2023年5月時点で月間200万UUを記録している。さらに地上波コンテンツとして、おぎやはぎ(小木博明、矢作兼)が冠MCを務める番組『おぎやはぎのハピキャン』が2019年4月よりレギュラー放送中。2023年5月時点で全国27局、36都道府県で放送されている。

2020年3月にはYouTubeチャンネルで番組のアーカイブを開始し、2023年5月時点でチャンネル登録者数26万人を抱えるほか、2021年7月には公式ECストア「ハピキャンストア」をオープン。2023年3月には番組発の書籍も発売された。

昨今のキャンプブームの折、キャンプをテーマに掲げるメディアが多く登場するなか、テレビ局発のビジネスとしてどのような強みを見出しているのか。ハピキャン事業マネージャーを務める名古屋テレビ放送株式会社大西真裕氏にお話を伺う。

■キャンプは「まだやっていない人のほうが多いカルチャー」

──テレビ局がキャンプメディアを運営するという斬新な試みはどのようにして始まったのでしょうか?

大西真裕氏

大西氏:きっかけは、メ〜テレが放送事業に次ぐ新たなコンテンツビジネスの強化を打ち出したことからでした。作り手自らがビジネス展開も手掛けなければいけないわけです。

とはいえ、ローカル局がこれまで通りのようなコンテンツを作って売るというオーソドックスなやり方をとっていては、制作費をリクープするまで非常に長い時間がかかります。そこで逆転の発想として、まず事業としてのスキームを構築し、それを活かすための動画コンテンツを作ればよいのではないかと考えました。

──キャンプというテーマを選んだ理由は?

大西氏:検討当時、既にブームはきていたのと、そのブームが伸びてくるのもみえていました。

もうひとつは、個人的な原体験からです。一人息子と一緒にどんなことをしようかと考えていたある日、自分が子ども時代に楽しんだキャンプのことを思い出しました。休みになるといつも叔父が車に乗せて連れて行ってくれて、いつも荷台には道具が満載。それを手際よく運び出してテキパキとテントを組み立てる姿がスーパースターのように恰好よくて、こうした経験を盛り込んだものが作れないかと考えました。

■WEB媒体の“ブースター”として機能する地上波テレビ番組

──コンテンツ起点ではなく、大枠の事業モデルをベースに展開のひとつとして動画コンテンツを発信するというアプローチが興味深いです。具体的にどのような座組でメディアを運営されているのでしょうか?

大西氏:WEBメディア「ハピキャン」が事業面の柱となっています。ここではキャンプ初心者から熟練者まで幅広い層をターゲットにさまざまな記事を発信しています。その中では企業さまとのタイアップ企画も展開しています。

『おぎやはぎのハピキャン』は、これらコンテンツラインアップの看板となるスーパーリッチコンテンツという位置づけです。

WEBも含めたメディア事業を展開しながら、視聴者、読者により楽しんでもらえるエンタメコンテンツとして、そしてメディア全体の認知を飛躍的に高めるブースター的な存在としてテレビ番組を連動させ、事業を確立させていこうと考えました。

──映像コンテンツだけでなく、デジタルメディアでも収益を確保するわけですね。

大西氏:メディア広告費が4マス媒体からデジタル媒体へとシフトしているならば、そのデジタル媒体で収益を上げればよいという考えもあってスタートしました。視聴者、読者にとって楽しく有益な情報を届けると共に、事業としては「ハピキャンというIP(知的財産)を育てることと、“放送以外の売り物を”作る」こともミッションとしています。

──出版社をはじめ、アウトドアメーカーやアパレル企業など、さまざまな業界からキャンプメディアへの参入が相次いでいますが、「ハピキャン」はメディアとしてどのような勝ち筋を描いていますか?

大西氏:ハピキャン立ち上げ時、私はもちろんキャンプの “玄人”ではありませんでしたし、もともと企画の構想自体も私と息子との過ごし方から始まり、「たまたまキャンプに行き着いた」ようなものですが、ここにこそ「ハピキャン」を運営する意義があると思っています。

ブームのさなかではありますが、端的に言うと「まだやっていない人のほうが多い」カルチャーです。なんとなく知ってはいる、気になってはいるものの、まだ経験したことがない人たちが「なんだかキャンプって楽しそう、アウトドアって良さそう」と思ってもらえるコンテンツを発信できたらと。

まだやったことのない人が「なんだか楽しそうだな」と興味を抱くフックになるならば、ひとつのコンセプトにこだわらずにいろんなアプローチを試してみようというのが私たちの考えです。

WEBメディアではライトな記事だけでなく、専門性の高い記事や、SEO(キーワード検索による流入を狙ったコンテンツ)記事まで幅広く扱います。テレビ番組もまたそういう面で「『まだやっていない人』に届けるコンテンツ」という位置づけです。メディアとしての特徴も意識しつつ、キャンプ・アウトドアそのものへの間口が広がっていけばと考えています。

──「まだやっていない人に届ける」ために、テレビ番組のフォーマットも活用するということなのですね。

大西氏:はい。そのためにエンタメコンテンツがあるという考えです。WEBメディアと地上波番組を連動させようと考えた場合、情報番組との連携の方が親和性があるかもしれません。でも、大事なのは「楽しそうだ」と思ってもらうことだと考えていて、『おぎやはぎのハピキャン』というバラエティ番組はその役目を果たしてくれると思っていました。

■ロケ1回での収録素材を徹底料理。コンテンツを無数に作り出す

──おぎはやぎのお二人がゲストとともにゆるくキャンプを楽しむ姿が印象的な『おぎやはぎのハピキャン』ですが、収録はどのようなスタイルで行っているのでしょうか?

大西氏:番組は1回のロケで(30分番組を)5本撮りしています。番組チームの努力の賜物です。本当に感謝しかありません(笑)待ち合わせ場所から目的地に車で向かい、買い出しからキャンプをするまでの全部の旅程を5分割しているので、エピソード1ではキャンプ場に到着しないまま終わることもたびたびです。「これってキャンプ番組なのか?」とよく突っ込まれることもありますが、道中の会話なども含めてありのままの「キャンプ」を伝えることで、キャンプをやらない人も含め、いろんな方々に楽しんでいただけているようです。

──1回分のロケ素材を余すところなく、コンテンツとして発信するのですね。

大西氏:ロケの際にはYouTube動画も収録しますし、ロケの様子を取材してWEB記事にもまとめます。さらに近々、番組に不随する、別のコンテンツもWEBにて展開予定ですのでお楽しみして頂ければと。。

テレビ番組をつくる場合は放送枠や予算などの条件があり、AかBか迷ったときでもどちらかに決めなければならないのが基本ですが、WEBコンテンツの場合は「迷ったら両方出す」ことも可能です。これまでテレビでは数十分のオンエア素材を作るために数時間のロケ素材のほとんどが捨てられているなど、非常に「もったいない」ことをしてきましたが、「ハピキャン」では1回のロケチャンスを生かし、可能な限り「料理」しつくします。

■「キャンプには衣・食・住がすべて含まれている」

──自然のなかでふと心を開いてしまう、キャンプというシチュエーションならではのプロモーション展開も。

大西氏:キャンプは特化しているジャンルにみえて、実は生活の衣・食・住がすべて含まれているので、モノやコト、場所などをプロモーションするフォーマットとしても優れていると考えています。ただし、それらが違和感なく溶け込み、自然に読者、生活者に伝わるようにするには、「演出」や「ストーリー」が必要で、このポイントを大事にしています。そういった部分も、アウトドアメーカー様や当社(メ〜テレ)がお付き合いさせていただいているクライアント様に対してアプローチできている部分かもしれません。

■「ファンづくり」のために本質を意識したコンテンツづくりを

──「ハピキャン」というメディア全体が醸し出す「なんか楽しそう」という雰囲気は、一種のブランディングというわけですね。

大西氏:WEBメディアにおける「ハピキャン編集部」では私も含めてスタッフが登場するコンテンツもあり、どんな人間がハピキャンをつくっているのかという部分も見せています。こうしてユーザーや視聴者のみなさん、業界の皆さんにもより「楽しそうだな」という本質的な感覚や親近感を持っていただき、テレビ番組も含めたコンテンツはもちろんのこと、“中の人”ごと「ハピキャン」を好きになってもらえたら嬉しいと思っています。

──作り手に親近感を抱くと、よりコンテンツに対する思い入れが強くなりますね。

大西氏:これはメディア全般に言えることだと思いますが、固有のファンづくりこそが一番大切であり、一番苦労するところだと思います。「キャンプ」と検索してやってくる人にとって、その記事がどのメディアのものかはあまり関係がありません。いくらPVを多く稼いだからといって、熱狂的なファンがつくとは限らないのです。

その点、私たちはテレビ局としてエンタメコンテンツを持っており、ファンを非常に作りやすい環境にあるのでは?考えています。

──今後はどのような展開を考えていますか?

大西氏:「IPを育てる」と冒頭でも話しましたが、最終的には「ハピキャン」が固定のファンを持つことに活路を見出したいと考えています。オンラインか、オフラインかはまだ検討中ですが、遠からず、何らかの形でファンコミュニティを構築していきたいと考えています。

また、テレビ朝日系列のネットワークを活かした取り組みも進めいけたらと考えています。現在は番組販売という形で各局さんに放映してもらっていますが、それだけではなく一緒に「ハピキャン」に関わっていただき、各自治体さまの問題解決ができればもっと本質的な部分を活かしたメディア展開ができそうです。

──今回、TVerのキャンプ特集『TVerでキャンプ』より、メ〜テレとして初めてTVerへのコンテンツ提供もスタートしました。

大西氏:TVerのキャンプ特集を担当された横田嘉与(株式会社TVer サービス事業本部 コンテンツ編成タスク 企画チーム)さんからお声がけをいただき、配信を決定しました。

横田氏:ご連絡させていただいた当日のお昼にアポイントを取らせていただいて、その日の夕方には打ち合わせに伺わせていただきました。

大西氏:本当にものすごいスピード感で驚きました(笑)。配信開始までのスケジュールも想像もつかないほどに短期間でしたが、WEBならば「今作って、明日出す」くらいの流れはまったく珍しくなかったので。これも、テレビのお仕事だけをやっていたら備わらなかった感覚だと思います。

──今後、TVerに期待することがあればお聞かせください。

大西氏:良質なコンテンツを配信する圧倒的なプラットフォームとして、今後もぜひご一緒させていただけたらと思います。TVerが良質なコンテンツの集合体であるのは間違いありませんし、視聴者のみなさんもそう感じていることでしょう。こうしてにお声がけいただだけることがとても嬉しく、「TVerのコンテンツとして選ばれた」ことを誇りに感じます。

いまやTVerは、ローカル局の番組を全国に広く届けるためのプラットフォームとしても大きな存在ですので、これからもさまざまな形で活用させていただければと思います。

『おぎやはぎのハピキャン』をはじめ、キャンプをテーマにした番組からレギュラー番組の「キャンプ企画回」まで、全国各地の放送局が制作した番組を網羅した特集『TVerでキャンプ』は、5月31日までTVerで配信中だ。

特集ページ「TVerでキャンプ」

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