左から伊藤有弥氏、佐久間宣行氏、小池瑛之氏

25 FEB

佐久間宣行Pが“TVerオリジナル番組”に見いだす勝ち筋とは? 〜『褒めゴロ試合』担当者インタビュー

編集部 2023/2/25 10:00

TVer完全オリジナル番組『褒めゴロ試合』が、2023年1月14日より配信スタート。『ゴッドタン』『あちこちオードリー』(テレビ東京)など人気番組を数多く手がけるテレビプロデューサー・佐久間宣行氏が演出を手がけるこの番組では、毎回さまざまな分野に熱烈な愛情を注ぐゲストが登場し、自らの好きなテーマをいかに上手く「褒める」かでバトルを繰り広げる。

褒めゴロ試合【TVer完全オリジナル】

さらに今回はTVer史上初の一社提供番組として、車のサブスクリプションサービスなど新たな切り口でモビリティサービスを展開する株式会社KINTO(キント)がこのTVerオリジナル番組に加わる。番組と連動したオリジナルCMや一風変わった提供クレジットなど、一社提供を活かしたユニークな広告展開が行われている点にも早速注目が集まっている。

これまでにないTVerオリジナルバラエティ番組『褒めゴロ試合』はどのような経緯で生まれたのか。さらに世の中に多くの動画配信サービスが存在する中、TVerというプラットフォームにおいて、どのような強みを持っているのか。一社提供社の小池瑛之氏(株式会社KINTO)、番組プロデューサーの佐久間宣行氏、伊藤有弥氏(株式会社TVer)にインタビューする。

■ネット配信で人気、「熱を持った語り」を取り入れた“ファン拡張”の番組作り

――まずは最初に、番組立ち上げの経緯からお聞かせいただけますでしょうか。

TVer 伊藤有弥氏

伊藤氏:とにかくTVer初一社提供番組のパーパスを語りまくりました。2019年に新しい価値を自動車業界で作るために立ち上げたKINTO様と、2020年にテレビの新しい時代を切り拓くために立ち上がったTVer社とは、僭越ながら相通ずるビジョンを感じていました。また、TVerのインストリーム動画広告「TVer広告」で21年度の出稿上位社様でもあり、弊社のここまでの広告事業面でのグロースを共に歩ませていただいたKINTO様だからこそTVerのことをよく理解いただいている背景があります。もちろん自分でもKINTO様のことを沢山勉強し、お互いをよく知っていた、だからこそ今まで誰もやったことがないこのプロジェクトの未開の地を、恥を忍んで語れたと思います。そして、自動車のメインターゲットであるM(男性)層の獲得に向けた新しい挑戦として、M層が熱狂するTVer初の一社提供バラエティ番組の夢を提案書としてアウトプットしました。

KINTO 小池瑛之氏

小池氏:私達はこれまで1年以上にわたりTVer広告を出稿し続け、CMの視聴尺やクリエイティブの検証を重ねる事で広告の接触者と非接触者による態度変容の差に一定の知見を得ていました。「TVer広告」に手応えを感じつつ、これを拡大させていくには比例して出稿金額を増やしていかなければならないと考えていた矢先、伊藤さんから今回のお話をいただいて、すごく面白いスキームだなと。しかも、数々の人気番組を手がける佐久間さんとご一緒できるということも非常に魅力的で、上手くはまれば出稿金額以上のリターンを得られるのではないかと思い、企画内容を詰めながら、調整を進めていきました。

伊藤氏:私は現在テレビ東京からTVerへ出向中の身ですが、「連絡ができてこのプロジェクトを託せるトップクリエイターは佐久間さんしかいない」と。図々しく、テレビ東京でお世話になった先輩にもパーパスを語りご相談させていただいて(笑)。

佐久間宣行氏

佐久間氏:かわいい後輩の頼みとあって、スケジュールが折り合えば是非、と。TVerオリジナルのバラエティを作るというのはまだあまりない試みだというので、じゃあやってみようと、受けさせていただきました。

伊藤氏:事例もない新しい挑戦のプロジェクトにしっかり向き合っていただいて、佐久間さんには本当に感謝しかありません。他にも旧知のテレビ東京や広告会社電通様のテレビ東京担当チームにも沢山のアドバイスをいただきました。TVerでお世話になり続けてきた広告主KINTO様をはじめ、私にとってかけがえのない大好きな皆さんのおかげでこの番組が成り立っています。

――今回は「好きなものを“褒め合って”バトルする」というユニークなコンセプトは、どのような背景から生まれたのでしょうか?

佐久間氏:熱があるというか、愛情や興味が伝播していくコンテンツが、配信では再生回数が回るイメージがあって。自分のYouTubeチャンネル(「佐久間宣行のNOBROCK TV」)でも1年半バラエティを作ってきましたが、その中でも、誰かが好きなものに対して熱をもって語っているものは結構広まっていくな、と。では、その熱い語りをさらにバトルの構造にしてみたらどうかと思いついて、企画に落とし込んでみました。

――ネット配信の視聴者層が求めるコンテンツ像を意識されたのですね。

佐久間氏:そうですね。ネット配信を見ている人たちの空気感を感じて作った企画です。話術はもちろんですが、語るものに対して感情や愛情が乗っかっているもののほうが人に広く伝わりやすいなというイメージがあって。それを企画としてどこかで落とし込みたいなと思っていたときにちょうど今回の機会をいただけたので、番組として具現化しました。

■テレビ局コンテンツの並ぶTVerで「オリジナル番組」が狙う“勝ち筋”

――テレビ、ネット配信ともにさまざまな番組を手がける佐久間さんですが、「TVerオリジナル番組」の今回、演出面などで特に意識されているところはありますか?

佐久間氏:有料のサブスク媒体で番組を作るときには「いかにそのためにお金を払ってもらうか」を意識して作るのですが、(無料動画サービスの)TVerでは、さらに「たくさんの中から選んでもらえる理由」が必要でした。テレビ局の人気番組が並んでいるので、ある意味「強力な裏番組に囲まれている」状況というか。ちゃんと番組に対して「見る理由」を作らなければ周りに負けてしまうと思ったんです。

なので、ある程度アクがしっかり強くなるよう、番組作りでは意識しましたね。ちょっと変わったところがあったり、ニッチだけれどパワーがあるというか。今回のMCには、そういった面で適任だと思った「さらば青春の光」の森田(哲矢)くんと若槻千夏さんを起用しました。パンチの強い人を入れたいなと思っていたので、お二人が引き受けてくれて良かったです。

『褒めゴロ試合』MCの森田哲矢(さらば青春の光)さん、若槻千夏さん

――第1回は「ラーメン二郎」というテーマに加え、“バキ童”の愛称で知られる芸人・ぐんぴぃ(春とヒコーキ)さんなど、ゲストのチョイスも話題になりました。

ぐんぴぃ(春とヒコーキ)さん、新道竜巳(馬鹿よ貴方は)さん
倉持由香さん、松田るかさん

佐久間氏:「ラーメン二郎」こそ、この番組で取り上げるテーマとしてはすごくぴったりだなと思ったんですよね。ニッチさがありながらみんな知っていて、「もっと知りたい」という人もいるようなアクの強さと引きがあって。ゆくゆくは「なんか勝手にあの番組で褒めてるな」と、いろんなファンの間で噂になるといいなと思っています。「あの番組で褒めてくれたら嬉しいな」という存在になりたいですね。

ゲストについても、ちゃんと“本物”にしようと思っています。森田くんと若槻さんは手練れで人気者だし、一般の視聴者の方も安心できる人なので、どこか(話が)嘘っぽい人を出すよりは、本当に愛情がある人で作ろうと。

この番組では芸能人もYouTuberも関係なく、熱っぽさがあってうまくしゃべることができれば気にせずキャスティングしていこうと思っています。普通のテレビ番組だったら出られないような、けれど面白い人が見つかるといいなと。せっかくTVerオリジナルでやるんだったら、この番組でしか見られない人が生まれるといいなと思っています。

――プラットフォームごとの視聴スタイルの違いをかなり意識されているように感じます。

佐久間氏:そこはかなり意識していますね。TVerはもちろん、YouTubeにしても、Netflixにしても、それぞれの視聴者層は結構分断していると思っているので。

その中でもTVerはテレビ好きな人がちゃんと見てくれていて、口コミが成立していくイメージがあります。その上でTVerオリジナルコンテンツとしては、配信してから口コミでどれだけ広まっていくかということも意識して作っています。

■「広告が視聴されやすい」「ターゲット外にも届く」TVerでの“一社提供番組”の強み

――今回は番組内のCMや提供クレジットの部分もかなり独特な演出が施されていますね。

伊藤氏:TVerの広告にはスキップ機能が無く、せっかく高い完視聴率の強みがあるならと、広告面もコンテンツ化して楽しく視聴体験してもらえるよう仕上げました。今回のKINTO様のCMは人気芸人コットンさんを起用して、番組と連動したオリジナルのクリエイティブを制作しました。番組テーマ同様に、褒める、褒められることでストーリーが展開される構成です。

『褒めゴロ試合』限定配信のオリジナルCM

また番組の提供表示も、MCの森田さん、若槻さんに提供読みを協力いただき、お二人らしい素敵なキャラクターが溢れる、CGアニメーションを駆使した面白おかしい提供クレジットを構えています。CMも提供表示も今後新作も投入予定なので、番組本編だけでなく広告面も余すことなくコンテンツとして期待していただきたいです。

『褒めゴロ試合』限定のKINTOオリジナル提供クレジット

小池氏:「TVer広告」ではデモグラを使いながら、過去KINTOで契約してもらった人と近い属性の方にターゲットを絞って広告配信する手法をとっていましたが、今回のような一社提供番組ではターゲットを絞る事ができません。その為、企画段階からどんな属性(性別・年齢)にリーチできるようにしたいか、視聴者にはどんな雰囲気を感じてもらいたいか、伊藤さん達と議論を重ね、それに沿った番組を制作して頂きました。

番組内のCMではKINTOに興味がない人にもわかりやすく、更にKINTOに興味をもってもらえるように意識しております。また、こちらが言いたい事ばかり伝えていると途中で視聴者が離れてしまうリスクを考慮し、少しでもKINTOの印象が残るよう『褒めゴロ試合』と連動したCMや、遊び心をふんだんに盛り込んだ提供クレジットなど、面白い仕掛けを展開することができました。このようなチャレンジができるのも、まさに一社提供ならではの良さですね。

■斬新なオリジナル番組で「TVerそのもののファン」を増やしたい

――佐久間さん、小池さん、伊藤さん、それぞれの立場から見て「ここはTVerだからこそできた」と感じられる部分はありますか?

佐久間氏:尺がある程度自由に作れることと、フォーマットの制約が少ないことが一番大きいですね。そのうえでちゃんとバジェットがあって、地上波のテレビ番組に近いものを作ることができるので、すごくやっていて楽しいです。

小池氏:広告主の立場からすると、TVerは民放テレビ局が提供するテレビ番組を視聴することができるサービスなので、他の動画プラットフォームと比較してコンテンツ力がありながらブランドイメージを毀損するリスクが低い、TVに近い存在でした。その上で、TVと大きく違うのはデジタルという事を活かした定性評価の振り返りです。これがあったので、私達は過去の結果からTVerの広告接触者と非接触者の態度変容の差がわかっていましたし、今回のような新しいチャレンジにもすぐに踏み切る事が出来ました。

伊藤氏:最近は他の動画プラットフォームと比較されることも多いですが、テレビ局の血が入っているTVerの強みは非常に大きいと思います。特に今回のような一社提供番組作りは、私自身も出向元のテレビ東京で教わってきた、テレビが長年やってきた王道のマネタイズ手法です。

もっと言えば、佐久間さん含め今回の制作チームはテレビ東京時代もお馴染みのチームなので、プロコンテンツ制作における実績面で、コモディティ化も見えるUGC(ユーザー生成コンテンツ)にはない大きなアドバンテージだと考えます。さらには違法/炎上動画が無いブランドセーフティを保証するTVerのプラットフォームでの配信だからこそ、胸を張って広告主様にも提案ができます。

――最後に、今後に向けた意気込みをお聞かせください。

佐久間氏:私としても初めての試みなので、いろいろ実験をして、最終的にたくさんのクリエイターが「TVerでオリジナルバラエティを作りたい」と思うきっかけになればいいなと思っています。

『褒めゴロ試合』は単純に楽しくて、すごく熱くて、なんだか面白い番組です。おそらくみなさんが想像するよりも何倍もお笑いバラエティになっていると思います。「褒め合う」という、一瞬ホカホカした雰囲気なのかと思いきや、「褒め合いでバトルをすると、こんなにピリピリした空気になるの!?」って(笑)

そんな感じで笑いながら見ているうちに、気づけば毎回取り上げた分野についていつの間にかに詳しくなっているという。そんな“得するし笑える”番組にしていきたいと思います。

小池氏:今回、デモグラやアフィニティを活用しながら広告ターゲットを絞り込んでいく従来の広告配信手法から、コンテンツの一社提供という形で幅広い層にリーチしていくという新たな試みにチャレンジできました。従来の広告配信以上のリーチを獲得できれば、このフォーマットを使った色んなオリジナル番組が生まれ、TVer自体が盛り上がり、また新しい事にチャレンジしやすくなると思います。

それを実現させる為にも『褒めゴロ試合』がこれまで以上に話題になってくれればと思っています。

伊藤氏:これまでTVerは各局の番組を視聴する手段であり、プラットフォーム自体として意識されることは多くなかったかと個人的に課題を感じています。例えば、検索エンジンで見逃した番組名で検索流入してたどり着いた先がたまたまTVerだったパターンです。これを、暇さえあれば気付いたらTVerを開いている、TVer自体が好き、今後はそんな “TVerそのもののファン”も作っていかなければいけないと思っています。

今回のプロジェクト成立に向けては、社内でも本当に多くの方々に協力していただきました。せめてもの恩返しですが、この『褒めゴロ試合』が「TVerが制作している番組って面白いよね」「TVerは新しい挑戦をしているね」などと、プラットフォームとしてのTVerそのものに興味を持ってアクセスしていただけるきっかけ作りも担っていきたいです。TVerファンの創出拡充はTVer全社員の大きなモチベーションにも寄与すると信じています。

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