03 FEB

IPTV Forum コネクテッドTV ―国内サービスの現状とこれからー 【InterBEE2022レポート】

編集部 2023/2/3 10:00

一般団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、「Inter BEE 2022」を2022年11月16~18日にかけて開催。今回は幕張メッセでのリアルイベントとオンラインイベントを並行しての開催となった。

本記事では、業界のエキスパートによる多彩なコンファレンス「INTER BEE FORUM」のセクションにて行われた「IPTV Forum コネクテッドTV ―国内サービスの現状とこれから―」から、基調講演「放送コンテンツのネット配信の推進」とパネルディスカッションの模様をレポートする。

左から村上氏、西村氏、須賀氏、井田氏

基調講演「放送コンテンツのネット配信の推進」には、総務省 情報流通行政局 情報通信作品振興課 課長 井田俊輔氏が登壇。パネルディスカッションでは、総務省井田課長に加えて、日本放送協会 メディア総局 デジタルセンター長 西村規子氏、株式会社TVer 取締役 須賀久彌氏がパネラーとして登壇し、日本放送協会 放送文化研究所 メディア研究部 研究主幹 村上圭子氏がモデレーターを務めた。

■情報氾濫のネット環境、放送コンテンツは「情報の公共性を担う存在」に

総務省 井田俊輔氏

基調講演で井田氏は、アテンションの獲得を狙った偽情報、誤情報の流通、特定の思想に偏った情報が肥大化する「フィルターバブル」「エコーチェンバー」問題に言及し、「ネットユーザーの間では“いかがわしい情報”への問題意識が高まっている」とコメント。その対策として例えば、YouTubeでは「デマの発生しやすい」災害や選挙に関するコンテンツの検索時、放送事業者によるコンテンツなどを上位に表示するような取り組みが行われていると語る。

「こうした取り組みを行政としても応援、拡大していけないかと考えている」と井田氏。不確実な情報が氾濫するネット環境において、地域情報を含め、情報の公共性の担い手の1つとして放送局由来のコンテンツが注目されていることを強調し、「放送事業者さんにとって、自分たちが真面目にやってきたことが報われる部分がもしあるのであれば、そこを後押ししていきたい」と述べた。

■「局横断発信」「ローカル強化」で発揮される“放送局系サービスの強み”

左から村上氏、西村氏、須賀氏、井田氏

パネルディスカッションでは須賀氏が「TVer」、西村氏が「NHKプラス」とそれぞれ放送局系配信サービスの立場からプレゼンテーション。須賀氏は「放送局を横断するサービス」としての側面を強調しながら、2022年10月26日で7周年を迎えたTVerの取り組みを語る。

直近の再生数やUB数の推移(週次)を紹介しつつ、「最近は『特集企画』をいくつか行っています。直近でいうと女優の長澤まさみさんが出演するドラマの過去作特集や、俳優の松重豊さんの出演作特集など、局を横断してラインアップを揃えていけるのがTVerの特長」(須賀氏)

株式会社TVer 取締役 須賀久彌氏

須賀氏はさらに「全国ネットでない番組でも再生数を稼ぐ番組が出てきた」といい、「TVerアワード」2年連続受賞の『相席食堂』(ABCテレビ/関西ローカル)や『かまいたちの掟』(さんいん中央テレビ/山陰ローカル)など、「ローカル番組ながら全国からひろく視聴されている番組が生まれている」とコメント。

レギュラー配信されている約600番組のうち、在京・在阪局以外が制作する番組の比率は約15%に達するという。

日本放送協会 メディア総局 デジタルセンター長 西村規子氏

西村氏も、「NHKプラス」における地域放送局との連携事例を紹介。全国7ブロックに分かれた拠点エリア単位での番組プレイリストを展開するほか、2022年10月からは関西・関東の地域局11局の18時台ローカル向けニュース番組の見逃し配信を開始。2023年度には全国すべての地域放送局カバーを目指しているという。

このほかにも、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に関連し、NHK山形放送局が制作した特集番組『いざ!寒河江荘 “鎌倉殿の13人”大江広元がゆく』を「NHKプラス」で配信。同ドラマでキーパーソン・大江広元を演じる俳優・栗原英雄が同氏ゆかりの地・寒河江荘をたずねるという内容は、山形県域ローカル番組ながら全国的に多くのアクセスがあったという。

ローカル番組に関して、須賀氏も「キー局だけでなく、放送業界全体のためのTVerとして何ができるのかを考えたい」と、2022年10月にTVerで展開された局横断型の特集企画「サウナ特集」を紹介。立ち上げの背景を語る。

「TVerで番組名・タレント名のほかに検索される一般的なキーワードに注目したところ、『サウナ』『キャンプ』『ラーメン』といったワードがそこそこの回数で検索されていることがわかりました。サウナ好きの社員が立ち上げた企画ですが、実はデータ・オリエンテッドな話から始まった企画」(須賀氏)

須賀氏は「これまで認知度の高くないローカル番組が露出できる場所はこれまで新着欄ぐらいだった」といい、「『サウナ』といった興味関心のキーワードを設定することで、キー局、ローカル局問わずに番組を見つけていただける仕組みができた」とその効果を強調。

一方で「キー局だけで配信を進めてもどこかで壁にぶち当たる」といい、「今後はローカル局の皆さんと一緒にどうビジネスを作っていくか考えていかなければならない」と述べた。

■重要性だが「自助努力では苦しい」ローカル局コンテンツを政策面でテコ入れ

総務省 情報流通行政局 井田俊輔氏

「行政的には、放送コンテンツの中でも地域コンテンツは独特の重要性があると思っている」と井田氏。「これまでは各局の自助努力だけで地域ごとの取材、独自コンテンツの制作が行われてきたが、作れば作るほど儲からず、経営が悪化してしまうという声もある」といい、「より強い重点的なテコ入れが必要なのではないか」と危機感をにじませる。

「具体的には『TVer』や『NHKプラス』というプラットフォーム自体をどうやって成長させていくか、あるいはYouTubeなどの中でどうやって放送コンテンツのプレゼンスを高めていくかという。ただ単に『その中に地域コンテンツも包含されていればいい』というものではなく、もっと明確に“ひと押し”したい」(井田氏)

2022年1〜3月に総務省が実施した実証事業「映像コンテンツを活用した地域情報発信」では、TVer協力のもと、ローカル局コンテンツの配信推進に向けて各局との交流を実施。「TVerというプラットフォームの中で地域コンテンツを見やすくしていってもらうことを実証していただき、知見を蓄えたい」と語る。

「画面の上部にローカル局のコンテンツを表示しても、スキップされてしまったら意味がない」と井田氏。「それに加えて、もっとローカル局の足腰を強くするような、制作能力やコンテンツ流通についてのより強い政策を考えられないかと思っている」と力を込める。

■「公共サービスメディア」への脱皮で生まれるアドバンテージと責任の大きさ

日本放送協会 放送文化研究所 メディア研究部 研究主幹 村上圭子氏

「放送局系サービスが“公共サービスとしてのメディア”へ脱皮することで、配信サービスとの差別化がおのずと図れるのではないか」と村上氏。これに須賀氏は「究極を言えば、私たちが目指すのは単体の動画サービスを作るということではないのだと思う」と答える。

「これまでは電波を通じてリアルタイムで見てもらうものを『テレビ』と呼んでいたのを、5年後、10年後には“放送と配信(TVer)の合わさったもの”を新しく『テレビ』とみんなが呼ぶようになるところまで行かなければならない。我々が作っていくサービスは単純に『YouTubeの競合を作りましょう』ということではなく、電波で送るテレビというメディアと一体化するサービス。その前提で、TVerの枠組みとしてやれることは何かというのを考えていくことになると思う」(須賀氏)

「テレビデバイスのリモコンにTVerへのアクセスボタンを搭載する流れが進んでいるが、いくらコネクテッドTVだ、チューナーレスTVだと言っても、『テレビを見ている』という従前通りの感覚の方は多い」と井田氏。「そういった方々に対してどういう形で安心安全を最低限確保していくか、行政としてもしっかり考えていかなければならない」

「放送事業者の立場としては、『われわれはそもそも安心安全なコンテンツを作っています』という風に思い上がるようなことがあってはならない」と村上氏。「私たちはいま本当に、公共的なコンテンツを堂々と胸を張って言えるものを作ることができているのか。行政がこうしたことを政策として考えれば考えるほど、われわれ自身もしっかりそのことを考えなければいけない」と結び、1時間強にわたるパネルディスカッションを終えた。

【関連記事】コネクテッドTVとリニア配信サービスの最新海外事情から見えてくる“メディアの本質” 【InterBEE2022レポート】