参加した子ども達
インナーブランディングと両立する社内イベントの作り方とは?〜ビデオリサーチ担当者インタビュー
編集部 2022/8/23 08:00
株式会社ビデオリサーチは、7月26日にCSR活動の一環として、自社・グループ会社で働く社員の子ども(小学生)を対象とした社内見学ツアー、および日本科学未来館で行われている特別展「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?(以下、きみとロボット展)」の見学ツアーを、新型コロナウイルス感染防止対策を徹底のうえ実施した。
同社が社内外のツアーを実施するのは初の試み。実施の経緯や背景、実施後の手応えについて、同社コーポレートコミュニケーショングループの長谷川晃子氏、企画推進ユニット企画推進グループの藤森省吾氏にインタビューした。
■「リサーチ4.0」事業の社内広報と社員同士のコミュニケーション活性が目的
――今回の社内見学ツアーの概要について教えてください。
長谷川氏:今回のツアーは、ビデオリサーチとそのグループ会社に所属する社員の子どもを対象に企画したものです。当初は当社関連の展示が行われている「きみとロボット展」の見学ツアーとして計画を立てていましたが、迎える側の社員も働きがいを感じられる機会を作ろうと社内見学ツアーも設けました。
――企画にあたって、どのような思いがありましたか。
長谷川氏:ビデオリサーチといえば視聴率のイメージを抱かれがちですが、「リサーチ4.0」など、新たな領域の革新的な取り組みも行っており、これらをいかに私たちらしく伝えていくかをかねてより考えていました。また、創立60周年の節目を迎えるなか、コロナ禍で減少気味だった社内コミュニケーションを活性化する機会にしたいという思いが、今回の企画には込められています。
【関連記事】「デジタルクローン」がもたらす新概念「リサーチ4.0」とは?
――小学生を対象としたことについては、どのような狙いがありましたか?
長谷川氏:小学生の子どもを持つ社員の年代は30代後半から40代が多く、会社の中でも中核となり活躍している層です。子どもたちに自分たちが働く姿を見てもらうことで親子の理解が深まりつつ、同僚同士でも、普段見ることのない親としての横顔を見ることで新たな発見や相互理解につながるのではないかと考えました。
■フロアを「TVのチャンネル(局)」に見立てて探検。業務中の社員と子どもたちが交差する社内見学ツアー
長谷川氏:午前中はビデオリサーチ社内の見学ツアー、午後からはバスに乗車して「きみとロボット展」の見学ツアーへと出かけました。
まず参加者同士の自己紹介のあと、「きみとロボット展」への出展テーマであるデジタルクローンや「リサーチ4.0」の取り組みについて、子どもたちにもわかりやすい言葉でレクチャーしました。
開発パートナーである株式会社オルツ副社長の米倉豪志さんにもカナダからリモート出演していただき、「本人を目の前に、本人のデジタルクローンに質問してみよう」というユニークな企画が行われました。
その後、ビデオリサーチのマスコットキャラクター「リサーチボーイ」をかたどった缶バッジ作りを体験したのち、オフィスの各フロアをテレビ局のチャンネルに見立てて、1階ではNHK、4階では日本テレビ……と、各局にまつわるクイズを出題しながら社内を探検しました。
あらかじめ社内で調整し、実際に社員たちが仕事をしている横を通りながら探検してもらうことで、社員にとっての日常と、子どもたちの非日常がクロスするよう意識しました。クイズを解いたあとは、ゴールである社長室に集合し、社長から記念品を受け取りました。子どもたちから社長が“校長先生”と呼ばれているのが印象的でした。
その後、午後からはビデオリサーチ本社から大型バスでお台場の日本科学未来館へ移動し、「きみとロボット展」の展示をみんなで見て回りました。
■「その答えは本心?」思考を再現するデジタルクローンに“心”を尋ねた子どもたち
――社内見学ツアーの楽しそうな光景が浮かんできますね! 午後にツアーした「きみとロボット展」について、あらためて教えていただけますか?
藤森氏:「きみとロボット展」は、ロボットやインタラクティブな仕掛けを通じて人間とロボットとの関係性を体験し、そのあり方を問いながら、人間とロボットの未来像を描いていく展示です。ビデオリサーチでは、オルツ社と共同開発した脳科学者・茂木健一郎氏のデジタルクローンを展示しています。
【関連記事】脳科学者・茂木健一郎氏のデジタルクローンの生成に成功
――デジタルクローンについて、あらためて教えてください。
藤森氏:デジタルクローンとは、一言で言うと、人の思考を再現するコピーロボットのようなものです。SNSや公開データから収集したデータを元に、「犬はこういう存在」「猫はこういう存在」「好き嫌いとはこういう感情」といった人間の平均的な思考モデルを作り、それに対して個別の重み付けをすることで、個人ごとの思考を再現する仕組みです。
現在、ビデオリサーチでは、さまざまな生活者の思考を再現したデジタルクローンを生成して、これらにアンケート回答してもらい、低コストでよりリアルな生活者動向の把握につなげられないかと検証を行っています。
――茂木さんの思考を再現したというデジタルクローン、子どもたちの反応はいかがでしたか?
藤森氏:ちぐはぐな回答が返ってきて笑われてしまったらどうしよう、と最初こそ心配していたのですが、とくに大きな問題も無く、自然な会話のやりとりができました。子どもたちも「何か質問は?」と問いかけたとたん、矢継ぎ早に質問を投げかけていて、非常に興味津々といった感じでした。
――子どもたちからの質問で、印象に残っているものはありますか?
藤森氏:みんな最初に「好きな食べ物は何ですか?」と尋ねている点が印象的でした。茂木さんいわく、人間っぽくない存在に感じるからこそ、対峙した人は「何かものを食べたりするのだろうか」などと、あえて生理的な質問をする傾向にあるのだそうです。今回の子どもたちもまさに同じ行動をとっていたので、なるほどと思いました。
長谷川氏:「○○が好き」という答えは、あくまで個人の思考の再現として話しているのか、デジタルクローンが「心情」として言っているのか、といった趣旨の鋭い質問もありました。
――深い質問ですね……。
長谷川氏:端で見ていて、あくまで子どもたちは一種のおもちゃとしてデジタルクローンで遊んでいるのかと思いきや、当の子どもたちにとっては「このデジタルクローンが答えていることは『本当に思っていること』なのか?」という点が非常に気になったようです。これには開発者の米倉さんも驚いていました。
――ちなみに、この質問にはどんな回答を?
長谷川氏:「私たちも、心があると信じて開発しています」とお返事しました。
――個人を再現するという面で気になったのですが、茂木さんのデジタルクローンは「大人向けの回答」「子ども向けの回答」など、相手によって回答を出し分けることは可能なのでしょうか?
藤森氏:現状はまだ、相手によって回答を出し分けることは想定されていません。今回も、「好きな人は誰ですか?」という子どもからの質問に大人レベルの難しい恋愛論で返す、といった場面が見受けられました。たしかに今後、相手に応じて回答のレベルを変えるという機能は必要かもしれませんね。
■「自分たちが楽しみ、社内とコミュニケーションを取る」インナーブランディングを確立
――今回のツアーで特に苦労したのはどんな点でしたか?
長谷川氏:一番は、感染対策でしたね。本当はたくさんの子どもに我々の活動を知っていただきたいという思いがあったのですが、どうしても時世的に難しいところがありました。極端な話、何もしなければ感染のリスクもないわけで、実施しないという選択肢もありましたが、これに関しては何とか開催したいという思いで一致しました。
スタッフ役の社員、参加者は全員開催当日に抗原検査を受けて陰性を確認し、子どもたちが使用する机や道具類も入念に消毒するなど、しっかりと安全を担保するための取り組みを行いました。おかげさまで、開催から2週間以上が経った現在もイベント参加者からの感染者が出ていないことを確認できています。
――業務と並行しての準備は大変だったと思いますが、手応えとしてはいかがですか。
長谷川氏:限られた条件のなかでいかに子どもに最大限楽しんでもらうか、メンバー同士で前向きに意見を出しあって、非常にポジティブな雰囲気でした。ツアーを通じて、他部署の人々にも自分たちの事業に興味を持ってもらいたいという思いで一致していたという点も大きかったと思います。
藤森氏:振り返ると、苦労したという気持ちより、楽しかったという気持ちの方が勝っていますね。私たちとしても良い気分転換になりました。自分たちがまず楽しんで盛り上げて、社内を巻き込みながらコミュニケーションを取っていこうという思いが、インナーブランディングとしての原動力にもつながっていった気がします。
長谷川氏:子どもたちが参加して楽しんでくれたことを通じて、社内にも「リサーチ4.0」プロジェクトの活動がいままでにない形で伝えられたと思います。これまでは会議報告などで「リサーチ4.0」について耳にするということが多かったのですが、今回は実際に質感や温度感を伴った形で自分たちの事業を社内に伝えられたという実感がありました。
――あらためて今回を振り返っての感想、そして今後の展望があれば教えてください。
藤森氏:今回、社内の評判もとても良く、私自身参加していてとても楽しいイベントでした。私の部署はこれまで「何をやっているのかわからない」と言われがちでしたが、今回このようにして社内にその取り組みを知ってもらうことで「こんな面白いことをやっているんだ」と、ある種“顔を売る”ことができたと思っています。
社内での認知度を得ることによって、ゆくゆくは既存の事業やクライアントとの新たなコラボなどにもつなげていけたらと思います。
長谷川氏:今回のツアー企画を通じて、「リサーチ4.0」プロジェクトの社内PRとインナーブランディングを両立させる方法を実践することができたと感じています。コロナ禍が穏やかになり、人が集まることへの制限が少しずつ緩和されることを願いつつ、今後もこのようなイベントを企画できればと考えています。
ビデオリサーチが出展協力する「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?」は、お台場の日本科学未来館で8月31日まで開催中。チケットなど詳しい情報は、以下のリンクを参照のこと。