放送局由来のコネクテッドTVアプリがもたらす社会課題解決のカタチ 〜仙台放送×J:COM担当者インタビュー(後編)
編集部
株式会社仙台放送(仙台市青葉区、以下「仙台放送」)は、国立大学法人 東北大学加齢医学研究所と「テレビいきいき脳体操アプリ(以下「脳体操アプリ」)」を共同開発。2021年11月25日より、JCOM株式会社(東京都千代田区、以下「J:COM」)が展開する4Kチューナー「J:COM LINK」(4K放送を含む放送サービスと動画配信サービスを融合させたAndroid TV搭載のSTB)向けのサービスとして提供を開始した。
本記事では、仙台放送 ニュービジネス開発局 ニュービジネス事業部長 太田茂氏、J:COM 次世代プラットフォーム戦略部 吉田功一氏と岡野理絵氏にインタビュー。後編となる今回は、「J:COM LINK」を通じたJ:COMのコネクテッドTVへの対応や、共同開発した「テレビいきいき脳体操アプリ」を通じ、仙台放送が放送局として取り組む社会的な課題解決のカタチについて掘り下げていく。
■「J:COM LINK」開始以降、「サービス接触時間」が平均20時間も増加
――「J:COM LINK」の提供が開始されて2年が経ちましたが、この間、コネクテッドTVとしてのニーズに変化は感じましたか?
吉田氏:J:COMでは、デジタル放送のサービスを開始した2005年当初より、サービス側とお客様のチューナー機器との「双方向接続」にこだわって参りましたが、「J:COM LINK」の開始によって、放送やVOD以外のサービスも、特に複雑な操作や設定なしにご利用いただけるようになりました。この点は、サービスとしても非常に大きな変化であったと思います。
お客様の月間視聴時間も、「J:COM LINK」登場以降は平均20時間程度増加しました。放送視聴以外にもOTTサービスなどの動画コンテンツに親しんでいただけていることが証明されたといえるでしょう。
――コネクテッドTVを通じ、テレビそのものへの接触時間が増えているのですね。
吉田氏:調査の結果、接触時間が増えることでお客様の満足度も向上していることがわかりました。テレビサービスをきっかけとした利用時間が伸びることで、お客様の満足度も向上し、結果、さらに長く弊社サービスをお楽しみいただけるという因果関係が明らかとなりました。
いま、私たちの目下の課題は、これまでの映像コンテンツに加え、お客様が継続的にご利用されるサービスをいかに作り出せるかという点にあります。こうした面からも、継続利用の習慣を育みやすいテレビを使った脳体操アプリを「お客様の健康や生活をサポートするサービス」としてリリースできたことは、非常に大きなことでした。
■「大画面、高画質」だけではない、コネクテッドTVならではの“特長”が見えてきた
――脳体操アプリは、テレビへのタッチポイントを増やすという面においても非常に大きな役割を果たしているのですね。
吉田氏:はい。まさに脳体操アプリにご関心をお持ちの方々と、J:COMのサービスを利用されている方々の層が非常にマッチし、大きな相乗効果につながっています。
太田氏:テレビの良さは、なんといっても「大きな画面」というところです。テレビの前に集まり、みんなでワイワイと脳トレをして楽しむこともできますし、リモコンなど、普段から使い慣れているデバイスがそのまま使えるという点も大きなメリットです。何かを始めようというときの心理的なハードルの低さという意味でも、強みであると思います。
※参考:1日20分・6週間のアプリ利用で「自動車運転技能」「認知機能」「感情状態」が向上する、という実証結果が公表されている。(https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnagi.2019.00099/full)
■仙台放送と川島教授、取材を通じた“18年越し”の取り組みが結実した「脳体操アプリ」
――産学連携によって共同開発された脳体操アプリですが、その下地には、仙台放送と川島隆太教授との18年以上に及ぶつながりがあると聞きました。
太田氏:2003年、当時放送していた報道番組『CATCH』で川島教授にご出演いただいたことがきっかけで、仙台放送は川島教授の取り組みを継続的に取材することになりました。
――地元放送局として、川島教授の取り組みを長年にわたって見てきたのですね。
太田氏:はい。その後、川島教授らが中心となって開発した認知症改善の取り組みを描いたドキュメンタリー番組『父さんの出発進行!~痴呆脱出の読み書き計算~』を制作、第12回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品として放送されました。さらに2004年からは、お茶の間で簡単に脳のトレーニングができる世界初の番組『川島隆太教授のテレビいきいき脳体操』の制作をスタートさせ、18年経過した今なお放送を続けています。これまでの放送回数は4500回を超え、海外での放送も始まっています。
――太田さんと「いきいき脳体操」とのつながりも、非常に深いものと聞きました。
太田氏:私は2007年に「脳体操」の担当として、番組と一緒に新規事業系の部署に異動し、番組制作、書籍化、海外展開、映画化など、脳体操を起点としたコンテンツの開発に関わってきました。現在は、番組制作を制作部が担当し、脳体操に関わる事業をニュービジネス事業部が担当しています。今回の「脳体操アプリ」も関連事業の1つとして生まれました。
■取材の知見を活かした、放送局ならではの「社会課題解決」
――取材の知見を生かし、「高齢ドライバーによる交通事故」という社会課題の具体的な解決につなげていくという取り組みは、まさに放送局ならではの取り組みと感じます。
太田氏:ニュースでも高齢ドライバーによる交通事故を多く取り上げてきましたが、今までは「どうすればよいのか」という解決策を提示することはできませんでした。特に「クルマがなければ暮らしていけない地方」に根差している放送局として、この問題を単なる事象として伝えているだけでよいのか、という思いを長年抱いていました。
「これまで積み重ねてきた知見を活かして、高齢ドライバーによる交通事故という社会課題の解決に挑めないだろうか――」。その思いを原動力に、2017年から本アプリの共同開発が始まりました。
――これまで「脳トレ」とされるものの多くは「認知症予防」という観点でしたが、脳体操アプリでは「運転技能の向上・維持」という方向へ舵を切っている点が印象的です。
太田氏:今回の脳体操アプリには、「作業速度訓練による安全運転能力向上プログラム」が含まれており、実際の運転行為やシミュレーター等を伴わない日常的な認知トレーニングにより、運転技能の維持・向上を目指すことができます。2018年には日本の特許を取得し、2019年に発表された東北大学の研究成果では、1日20分・6週間という短期間で「自動車運転技能」と「認知機能」と「感情状態」の維持・向上が実証されています。
また2021年4月からは、同アプリにAIを搭載することで、さらなる安全運転に向けたトレーニング効果の向上を目指しています。機械学習を利用してデータを分析。「惜しさ」や「速度差」、「左右差」などの弱点全般の把握など、精緻なデータを元にトレーニング内容を自動調整することができます。つまり、トレーニングすればするほど、プレイヤーに最適化されていく仕組みを加えました。
――コネクテッドTV、そして放送局由来のアプリをめぐる非常に示唆的なお話でした。最後に、今後の展望を教えて下さい。
太田氏:脳体操アプリを利用していただけばいただくほど、たくさんのトレーニングデータが蓄積されていきます。さらにJ:COMさんが独自に取得されているデータを組み合わせれば、これまで気づかなかった新しい価値や、データを活かした機能やコンテンツの開発なども可能となるでしょう。コネクテッドTVを通じ、視聴者の方とデータを双方向でやりとりできるという仕組みは、新たなテレビの価値を広げていけるのではないかと考えています。
さらに言えば、単に新しい価値を提供するのではなく、視聴者の健康や安心安全をサポートできることが重要だと考えます。SDGsにも「世界の道路交通事故による死傷者を半減させる」という目標がありますが、今回のJ:COMさんとの協業をきっかけに、こうした社会課題の解決に繋がるようなソリューションにまで高めていくことができたらと思います。