左から電通 谷内 宏行氏、サントリー 牧野 清克氏、ビデオリサーチ 橋本 和彦氏
テレビ×デジタル“統合指標”としての「視聴質」の役割〜VR FORUM 2021レポート
編集部 2021/12/16 09:00
株式会社ビデオリサーチが主催する国内最大級のテレビメディアフォーラム「VR FORUM2021」が、2021年11月11日(木)にオンライン開催。今回は「加速するDXがもたらす テレビメディアの変化と進化を考える」をテーマに掲げ、コロナ禍によってさらに加速するDXの流れのなかでテレビメディアが持つ「新たな価値」、「変わらぬ価値」について、業界のキーパーソンを招いたセッションが行われた。
本記事では、Session2「視聴質指標の開発について」の模様をレポートする。
本セッションでは、SNS(Twitter)データのAI解析によるCM・番組への反応分析の事例を挙げながら、コンテンツが与える態度変容や行動変容の構造を明らかにし、テレビ×デジタル時代における「視聴質」のありかたや活用の仕方についてディスカッションされた。
登壇者は、サントリーコミュニケーションズ株式会社 宣伝部長 牧野清克氏、株式会社電通 ソリューション・クリエーション・センターSP谷内宏行氏。司会進行を株式会社ビデオリサーチ 執行役員兼テレビ事業局長 橋本和彦氏が務めた。
■バズ分析から「番組の個性」が浮き彫りに
視聴の“量的”な尺度を示す「視聴率」とともに“質的”な評価の指標として「視聴質」を提起し続けてきたビデオリサーチ。今回のセッションでは、テレビ×デジタルの統合が進み、コンテンツ評価の重要性が増していることを踏まえ、SNS時代に即した手法として、TwitterデータをAIで解析することによる番組・CMの分析結果を取り上げ、現代におけるコンテンツの質的評価のありかたが紹介された。
まず谷内氏が、先行取り組みである「バズウォッチ」を紹介。
同ソリューションでは関東で3年以内にCM出稿のあった3,000社以上の企業が出稿するCMとその感想ツイートを分析し、週次ランキング。量だけでなく、性年代や趣味嗜好など、具体的な視聴者のプロフィールのほか、反応全体を代表するツイートの抽出を行っているという。
今回、ビデオリサーチでは谷内氏らの協力を得て、この「バズウォッチ」での技術やノウハウを活用して、約400に及ぶテレビ番組の感想ツイートを日々解析。その結果から、テレビ番組に対する投稿はとても個性的で、ジャンルだけみても違いがあり、とくに「ワイドショー」と「イケメン番組」では対象的な結果が現れたという。
「ワイドショーでは、取り上げた話題に対して毒舌的にコメントを述べるということが一種の“楽しみ方”となっていた。一方でイケメン番組では『仲良く和やかに感想を投稿しあう』コミュニーケーションが盛り上がっていた」と谷内氏。「感想ツイートの分析から、その番組が持つ“個性”が浮き彫りとなり、さらに同じ番組でも放送回ごとに反応が変化することが明らかとなった」と語る。
■「視聴率×視聴質」で視聴者の「嗜好性」「メディア間のクロス」が見える
ビデオリサーチでは、この「バズウォッチ」のバズ分析のエンジンに、同社が行っているテレビ番組の分析を掛け合わせて、視聴率と視聴質をかけ合わせた、テレビ×デジタル時代の統合管理指標の開発に取り組んでおり、2022年4月からは最終フェーズとして視聴率と併せて確認いただけるよう商用化調整を進めている。
さらに「視聴質」の具体的な分析事例として、サントリーがスポンサーの『日本沈没』『人生最高レストラン』(TBS)の結果を紹介。
『日本沈没』は、初回放送(10月10日(日))に向けてツイート数が上昇、投稿者は若い男性や女性も多く、視聴者層と投稿者層の違いを確認。ネガ投稿割合は初回放送3日前の関東での地震を踏まえたツイートが多く、現実とドラマの世界がリンクした結果と考えられる。また、投稿者の日々のツイート内容からクラスター分けした趣味嗜好分析や放送前・中・後のツイート(キーワード出現数)の変化を捉える分析といった「視聴質」に対するさまざまなアプローチを実施。
また、メディアの垣根を超えた事例として、番組主題歌を歌う菅田将暉さんのラジオ番組をきっかけに「ドラマが楽しみ」という投稿もあり、ツイートを分析することで、他メディアとの“クロス”もみえたという。
『人生最高レストラン』では、「投稿者層」を分析することで「放送回によって反応が変化する」傾向がわかった。歌舞伎俳優の中村勘九郎さんが自身の“推し”として「日向坂46」「櫻坂46」のメンバーを挙げた回では若い男性、タレントの大久保佳代子さんが出演した回では若い女性、女優の若村麻由美さんが出演した回では50代男性のつぶやきが突出したといい、「これまでの『視聴者層』という切り口では鮮明に見えてこなかった番組の個性が確認できた」と紹介。
「SNSに投稿する視聴者は、かなり能動的な層。積極的に行動する視聴者層がどんな関心を持ち、どう反応したかを確認できることは非常に大きい」と谷内氏。牧野氏は「『顧客層の自発的な行動を促すものになっているかどうか』はコンテンツの魅力の判別につながってくる」し、「『こういうものがお客様に受け入れられる』ということがわかってくるというのは非常に興味深く、こうしたデータを定期的に見られると嬉しい」と語った。
■「“自発的な声”の可視化」で、テレビ×デジタル施策の比較評価が可能に
「この調査では、番組と企業との『コラボCM』が非常にバズを起こすことがわかった」と谷内氏。映画『君の名は。』がテレビ放映された際、映画のストーリーにちなんで提供クレジットの企業ロゴデザインを会社同士で“入れ替える”演出が行われた際に大きなバズを生んだ例を挙げ、「踏み込んだアテンションの強いものを視聴者が求め、『SNSに投稿したい』と思わせるものが求められている」と指摘する。
「サントリーでも、ドラマ『ラジエーションハウスⅡ』(フジテレビ)内で、登場人物が自社製品を使った『金麦鍋』を作るインフォマーシャルを展開するなど、番組コンテンツを活用したCM作りを行っている」と牧野氏。「これまで反応している方々の顔が見えにくかったが、このように上がった自発的な声が可視化されれば、複数のコラボCM施策の効果を比較できる」といい、「地上波とTVerで複数のコンテンツを展開する事例もあるため、それぞれの反応の違いを見られることは興味深い」と語った。
このように、「視聴者がメディアやデバイスの垣根を越えてフラットにコンテンツを視聴する現在、その中で行われるプロモーション活動を評価するためのテレビ×デジタルの指標が意味を持ってくる。」と橋本氏。
■テレビ×デジタル“統合指標”としての「視聴質」の役割
「個人視聴率を見ると、M3(男性50歳以上)・F3(女性50歳以上)といった層が厚く、番組視聴を支えている傾向がある」と谷内氏。「若い年層が多いTwitterの反応を可視化することにより、これまで数の上で“圧縮”されてきた若い層が望む番組作りが行えるようになる。」と、その可能性を語った。
「テレビとデジタルを共通で比較でき、お客様の自発的な反応の定性データを定量的に見られることは非常に大きい」と牧野氏。「メディアの科学や指標がまだまだ必要である」としつつ、「お客様の反応を見ながらコンテンツの評価ができるようになったことは大きな成果」と評価した。
「テレビ×デジタルの統合指標が推進される今だからこそ、“コンテンツ”の質を可視化する『視聴質』の存在は非常に大きい」と橋本氏。「今後も改良を加えながら開発してく」と語り、セッションを締めくくった。
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