左からフジテレビ 戸津川 隆元氏、リクルート 熊切 淳氏、ビデオリサーチ 河辺 昌之氏
テレビ×デジタルに求められる指標とデータ活用の可能性について〜VR FORUM 2021レポート
編集部 2021/12/15 09:00
株式会社ビデオリサーチが主催する国内最大級のテレビメディアフォーラム「VR FORUM 2021」が、2021年11月11日(木)にオンライン開催。今回は「加速するDXがもたらす テレビメディアの変化と進化を考える」をテーマに掲げ、コロナ禍によってさらに加速するDXの流れのなかでテレビメディアが持つ「新たな価値」、「変わらぬ価値」について、業界のキーパーソンを招いたセッションが行われた。
本記事では、Session1「テレビ×デジタルに求められる指標とデータ活用の可能性について」の模様をレポートする。
本セッションでは、一部の放送局における同時配信の開始など、テレビのサービス拡充が進むなか、広告主から見たテレビCMへの期待やマーケティング上の課題、放送局における取り組みを取り上げつつ、「テレビ×デジタル」に求められる指標をテーマにディスカッションが行われた。
登壇者は、株式会社リクルート マーケティング室ブランドプランニングユニット長・熊切 淳氏、株式会社フジテレビジョン 営業局局長職兼デジタル営業部長スポット営業部管掌・戸津川 隆元氏。司会進行を株式会社ビデオリサーチ 営業局営業企画部長 河辺昌之氏が務めた。
■テレビCMに期待するのは「広い認知の獲得と中長期的な集客」
「広告効果を測定する数字としてKPIの存在が挙げられるが、ひとくちにKPIと言っても、その指標は広告主ごとによってさまざま」と河辺氏。「商材の種類や事業ステージ、ブランドはもちろん、ファネルごとに使うメディアやコミュニケーション活動も変化する」と語る。
商材の領域がほぼデジタルであるリクルートでは「ファネルにおける『検索』の意味合いが非常に大きく、クリティカルな顧客行動になりえる」と熊切氏。
広告効果を測る上で「CPA(顧客獲得単価)が大きな指標」といい、とくにテレビは「1人あたりのリーチにかかるコストを重要な指標として見ている」という。
「顕在層のみにアプローチし続けるマーケティングではマーケット自体が広がっていかないため、潜在顧客に対してテレビを中心としたマスマーケティングで認知をどれだけ広げられるか(Reach)が重要」と話した。
テレビCMに対しては、短期的なコンバージョンの面から「CMを見てすぐサービスを検索していただくことを期待している」と熊切氏。加えて、リクルートはウェディングや旅行などのライフイベントに応じたサービスを提供しているため、「直近にライフイベントがない方にも将来的に自社のサービスを選んでいただけるよう、中長期的な集客基盤としての効果も期待している」という。
■リアルタイム配信で高まる「プログラマティック広告」の機運
デジタルの分野ではターゲティング広告が主流となり、テレビCMの分野においても特定属性に向けたプログラマティック広告が導入される機運が高まっている。熊切氏は「例えば、ひとくちにM1(男性20〜34歳)層といっても、その中に様々な属性が存在する」と例を挙げ、「どこまで精緻化に踏み切るかが悩みどころ。いまはまだ理論に現実がついていかない状態である」と語る。
一方、2021年秋より一部の放送局を皮切りにリアルタイム配信がスタート。そのプラットフォームであるTVerは「デジタル技術を駆使して全国に流れるうえ、プログラマティックなCMを流せるといった点がワンセグと異なる」と、戸津川氏はメリットを挙げ、「テレビの放送を見ない『ノンテレ層』まで視聴者リーチを広げ、新たなターゲットを獲得することでテレビの価値向上やステークホルダーの利益に寄与するビジネスを目指す」とアピールする。
「フジテレビでは2021年9月に予約型の広告配信レポートをリニューアルし、データを拡充させた。今後はさらにデータを充実させ、リアルタイム配信でも同じような仕様を目指して準備を進めている」と。
さらに戸津川氏は、「TVer ID」についても紹介。
「これまでTVerでは最初のアプリ起動時に性別・年齢・郵便番号の情報をアンケート取得していたが、TVer IDの登場によって、ユーザーごとの視聴履歴やキャッチアップへの流れが可視化されるようになる」とし、「これらを1stパーティデータとして活用し、Cookieレス時代においても、さらなるターゲティング精度の向上につなげていきたい」と語った。
■テレビとスマホの“連動CM”で顧客の具体的な行動を誘発
フジテレビでは、テレビCMにおけるマーケティング課題解決の取り組みとして、セカンドスクリーン連動型のCMパッケージ「C×M(シーバイエム)」を開発。QRコードを通じてスマートフォンアプリとテレビCMをリアルタイムに連携させた広告を展開し、視聴者との「共同体験」を演出する施策を実施している。
東京オリンピックの時期にあわせて開催されたコカ・コーラ社の施策「Coke ON」では、日本代表チームのメダル取得有無にあわせて2バージョンのクリエイティブを用意し、試合結果に応じてリアルタイムな差し替えを実施。CMと連動したスマートフォン上の動画を通じて視聴者が日本代表の勝利を一緒になって「乾杯する」という広告体験を作り出した。
「テレビならではの爆発力を持った企画になった」と戸津川氏。さらに「アプリダウンロード数や、キャンペーンサイトのリピーター率、流入元、デモグラフィック(属性)、バナークリック率、SNSのフォロー・リツイート率など、この施策をきっかけに多くのデータを得ることができた」という。
「テレビはリードを取りこぼさない圧倒的なリーチ媒体としてさらなる強化が進んでいる」と河辺氏。「到達のみならず、具体的なアクションを誘発させるパワーをテレビは持っている」と語った。
■テレビ×デジタルで「到達指標」を共通化
後半では、ふたたび広告主目線のマーケティング課題に立ち返り、到達指標・効果指標についてディスカッション。「これまでは希望のターゲットに対して最適な出稿枠が見つかっても、オペレーション上の制約によってCMを流すことができないというケースも存在した」と河辺氏は語り、オペレーション上の課題についても議題に挙げた。
戸津川氏は、テレビCMに関してもターゲティングを行う方法として、民放各局共同の取り組み「Smart Ad Sales」を紹介。「ECサイトで商品を購入するような感覚」でタイム・スポット以外にCM枠を1本から購入できるほか、ビデオリサーチが提供する「枠ファインダ」を通じ、「さまざまなサプライヤーから供給されるパネルデータをもとに、希望するCM枠の視聴者属性をあらかじめ把握し、出稿の参考にすることができる」と語る。
さらに戸津川氏は、冒頭で熊切氏が挙げた「媒体間で効果測定の指標が異なる」という課題について、テレビでデジタルと同水準の効果測定を行う試みとしてBSフジと電通が共同で実施する「CONNECTED VIEW」を紹介した。
「CONNECTED VIEW」では、BSデジタルの放送波にタグを埋め込むことで、各世帯にある結線されたテレビ受像機よりテレビ局視聴データ(BML)を取得。ターゲットの視聴数に基づき広告課金を行うことができる」という。
「デジタルと指標を揃えることで広告主のみなさまには一緒に出稿していただき、テレビとデジタルの“いいとこ取り”を目指したい」と語った。
続いて河辺氏が、テレビ×デジタルを同じ単位(人ベース)で示した事例として、全国同一基準の「新視聴率」を運用するビデオリサーチが、東京オリンピックの競技中継の「テレビ」と「ライブ配信」それぞれの平均推計視聴者数、推計到達数を算出(電通との共同研究)したと紹介。テレビ・配信それぞれ単体の視聴数はもとより、テレビ×デジタルの重複Reachも可視化し、人ベースで表現(指標の統一化)する取り組みを進めている」と語った。
■メディアログ×アンケートでミドルファネルの効果を可視化
「テレビメディアの価値はリーチの圧倒的な強さにあるが、リーチ以外のミドルファネル(興味・検討)に対する効果指標を可視化する動きも進んでいる」と河辺氏。「ビデオリサーチのグループ会社・every syncが保持する大規模シングルソースパネル「es XMP(esクロスメディアパネル)」(東阪7500サンプル)は、テレビやモバイルアプリの接触ログ、さらにアンケート結果を組み合わせた効果測定が可能だ」と紹介した。
中長期的なテレビCMの効果として、テレビCM接触ログ1年分とアンケート結果の組み合わせでファネルを描き、ミドルファネルの効果差をCMの接触/非接触別に確認。さらに、ファネル段階別におけるリード獲得のヒートマップから潜在顧客の獲得が見込める出稿プランを作成し、広告出稿効率化の提案事例として紹介した。
■テレビ×デジタルに求められる指標とは
「ビデオリサーチは「横のテレビ×デジタル(到達指標の拡張)」として、人ベースでプラットフォーム間の重複を明確にし、メディアのトータルリーチ測定を目指す。また、「縦のテレビ×デジタル(効果指標の拡充)」としては、メディアとしてのテレビのパワーをミドルファネルにも活かすため、その効果の可視化に取り組む。」と河辺氏。
最後に「さまざまなデータが揃った状態なので、広告主としては知る段階から実現するフェーズに。ターゲティングなどの効率化と広告の量(グロス)のバランスをどうとっていくのかが、マーケターには肝要。」と熊切氏。
戸津川氏は「クッキーレス時代においては『コンテクストマーケティング』が主流となるだろう。番組内容をメタデータ化して映像コンテンツに紐付けることで、ドラマの主人公がビールを飲むシーンの直後にビールのCMを流したり、恋愛シーンの後にライフイベント関連のCMを流せたりするように進化しなければならない」といい、「数十年後もテレビが広告主様に喜んでいただけるメディアであり続けるための取り組みが必要」と展望を語った。
「ビデオリサーチとしても、広告主各社様において柔軟なKPI設定の伴奏ができるようお手伝いをしていきたい」と河辺氏。「引き続き、テレビ×デジタルの次世代型メジャメント企業としての使命を果たしていきたい」と語り、セッションを締めくくった。
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