左から)布瀬川平氏、石谷聡史氏

20 DEC

売り上げ・シェア拡大のための統合プランニング 非合理的な購買を説明するための“アウトサイドファネル”を理解~電通主催セミナー(#1)

編集部 2021/12/20 09:15

株式会社電通は、「RADIO AND TELEVISION IMPROVEMENT 2021」と題したセミナーを11月10~12日に実施。4編にわたって開催されたセミナーのうち、本稿では11月10日に行われた#1『購買行動実態から見る新しい広告効果の把握~ファネルの内と外のマーケティング~』の模様をレポートする。

登壇者は、電通ラジオテレビビジネスプロデュース局 エグゼクティブ・メディア&デジタル・ディレクター 次世代放送ビジネス統括の布瀬川平氏と、同社データマーケティングセンター チーフ・ビジネスクリエーションディレクターの石谷聡史氏。

■放送コンテンツのビジネスモデルを“エコシステム”として循環・進化させる

セミナーでは、まず布瀬川氏が、「ラジオテレビビジネスプロデュース局がどのような考えで日頃の活動を行っているのか」を紹介。

「各放送局が優良なコンテンツや有益な情報を作り、いままでは放送を活用して生活者のみなさまに無料で届けることで、生活がより豊かなエンターテインメントあふれるものになっている。このエコシステムを維持することを目指しています」。

そしてここには、放送コンテンツのビジネスモデルとして、「魅力的なコンテンツ制作」が放送インフラを活用した「メディアの発展」を導き、「生活者の満足と視聴者数の維持拡大」が「企業の発展」をもたらすという、“エコシステム”が成立するのだと言う。

「またこの“エコシステム”が循環・進化し、持続的に続く“エコサイクル”が継続して実現されるという中で、我々がその一助となることを目指しています」と、同社の活動指針となる考え方を示した。

■非合理的な購買の存在を把握。“アウトサイドファネル”の存在を意識すべき

スピーカーは石谷氏に替わり、セミナーは主題である「顧客行動実態から見る新しい広告効果の把握~ファネルの内と外のマーケティング~」へ。

この主題は、同社がデジタル環境における統合マーケティングコミュニケーション戦略の進化において、商品・サービスの売り上げを上げていくにはどうすれば良いかを改めて考えた時、「人はどのようにして物を買うのか、非合理的な購入を含めて根本に立ち返る」ことが必要と考えて新たなプロジェクトを立ち上げ、得られた知見なのだと言う。

ここで4つのテーマが示された。

第一部のテーマは「デジタル環境において、人はどのように物を買うのか」

まず、発表の基本骨子となる“ファネル”の概念が説明された。“デュアルファネル”による人基点のマーケティングは、「解決すべき課題の特定やマーケティング施策の役割分担、効果の把握のしやすさから主流になってきている」ものだと言う。

今回同社は、人はどのようにして物を買うのかを、商品の購入プロセスや心理行動を把握して分析するため、改めて独自の自主調査・実ログデータ分析を実施した。

すると、「カテゴリーやブランドに関心がない層の商品購入が日用消費財で40%程度存在する」「カテゴリー関心が低くても近親者との会話が購買に影響する」といった、“デュアルファネル”の概念では解釈しづらい部分もあったと言う

石谷氏は、「非合理的な購買があることや、集団全体に情報が広がることに意味があるのではないか」という考察を示し、“デュアルファネル”の外に存在する、商品・サービスの購入者を“アウトサイドファネル”と名付け、「顧客基盤を拡張していくためには、無視できないボリュームがある」と強調した。

■人間の3つの習性で分析する大人気アニメの劇場版 の大ヒット

第二部は「ホリスティックアプローチを特徴づける人間の3つの習性」

まず、この情報過多で忙しい世の中における人間には、次の「3つの習性」に注目すべきだと石谷氏は語る。

それは、「腹落ちする、都合の良い情報を取り入れて、購買理由を強化する“補強習性”、買ってよいものを無意識のうちに設定して判断の労力を省略する“省略習性”、近接者の集団で共有される情報が判断基準になる“同調習性”というものだ。

これらの習性が複合的に働いた事例として、大人気アニメの劇場版の大ヒットが取り上げられた。

そして、「これらの3つの習性は相互に連関し、“ダイナミックな有機体”としての市場を構成しているのだ」と石谷氏は第二部のまとめを語った。

■シグナル・ノイズ作用とは。新しい広告効果の可視化。

第三部は「顧客行動実態から見る新しい広告効果の把握 シグナル・ノイズ作用」

“シグナル・ノイズ作用”とは、「生活者の購買行動を刺激するために、広告や情報がどのように作用しているのか」を示す新しい考え方だ。市場全体から見れば少数だが、関与の高い方々を中心に直接訴える際に起こるのが“シグナル作用”。これは“デュアルファネル”による購入につながるのだと言う。

反面、「従来はターゲット外に届く情報や広告は無駄であり“ノイズ”だとされてきたが、この“ノイズ”は“アウトサイドファネル”での購入につながる」、という見方を石谷氏は示し、ビルボード広告の事例や、SN比(シグナル・ノイズによる購買の比率)による分析結果を披露した。

第四部は「統合マーケティングコミュニケーションでの活用法」

第四部では、これまでの分析手法を用いた具体的な活用法が示された。その上で、「自社ブランドでの“アウトサイドファネル”はどの程度の売り上げボリュームなのか、シグナル・ノイズ比率は競合ブランドと比較してどうなっているのかを判断し、自社ブランドの現状評価を行うこと。そしてKGI/KPIを見直し、統合マーケティングコミュニケーション戦略への反映を検討する」といった流れが紹介された。

最後に石谷氏は、「本日一番お伝えしたい点は、商品・サービスの売り上げを包括的に管理するためには、“デュアルファネル”の外にある“アウトサイドファネル”にも注目すると良いのではないか」と、改めて主題に関わる提言を行った。

最後に布瀬川氏が改めて登壇し、本セミナー全体に関する考え方を次のように示した。

「我々は、生活者に優良なコンテンツが届くように、既存の放送だけではなく通信で、またテレビデバイスだけではなくてスマートデバイスによってどのように届けていくのか、そういった点のビジネスにどう貢献していけるのかを考えています。本セミナーにおいては、(前段で説明した)エコサイクルの中でのマーケティングを、どう効率化・高度化して、拡張していけるのか、ということを中心に取り上げていきます」

続いて行われる3編に期待を持たせ、本セミナーは終了した。