左から)深田航志 氏、吉田高次 氏、甲田春樹 氏、小林祐樹 氏
情報の主導権・メディア選択権は生活者側にある!「届けるから動かすへのブランディング」ーインテージフォーラム2021レポートー
編集部 2021/11/24 08:00
マーケティングの未来を議論する「インテージフォーラム2021」が10月26日~28日にオンラインで開催された。今年のテーマは「CCX(Consumer-Centric Transformation)~生活者起点でビジネスをアップデート~」。生活者理解の深化とデータ活用の高度化により、一人ひとりの顧客(=個客)に向き合うマーケティングの実践が必要であるとし、そのためのヒントを紹介するフォーラムとなった。
本項で紹介するのは、10月27日に行われたセッション「届けるから動かすへのブランディング スポンサードとブランドアフィニティを考える」で、テーマは「視聴者や生活者視点のブランド・コミュニケーションを考える」というもの。
登壇者は、株式会社コーセー 宣伝部 宣伝企画課課長 小林祐樹氏、株式会社電通 メディアビジネス局 メディア・ビジネスクリエーション部 甲田春樹氏、株式会社フジテレビジョン 営業局 営業推進センター 営業推進部 吉田高次氏。モデレーターは株式会社インテージ 事業開発本部 メディアと生活 研究センター長の深田航志氏が務めた。
■「心を動かすCM」フジテレビによる広告主・広告会社との共創事例
セッションはモデレーターの深田氏がテーマを紹介し、「広告主・広告会社・放送局・ベンダーから、最新トレンドを共有すること」「既存の仕組みを再構築し、共感や応援していただけるブランドになる秘訣について語る」という目的が語られ、登壇者による取り組みが披露された。
まずフジテレビの吉田氏が、「コ・クリエーションで心を動かす NEXT TELEVISION」というタイトルで、ROE(Result Oriented Exposure=結果指向の露出)とC×M(テレビとスマホが連動する視聴者参加型CM)という、広告主・広告会社との共創事例を紹介した。
ROEはTOKYO2020オリンピック・パラリンピックの民放共通企画として各社で放送されたもので、日本人選手の競技結果に合わせてCMを出し分けるもの。勝利を受けて「おめでとうございます!」というお祝いの言葉が流され、「メダル獲得を祝して乾杯!」と続くことで、視聴者の中に感動を広げていく。
この出し分けCMはスマホと連動したC×Mともなっており、さらに即時抽選で全国のスマホ自販機で引換ができるドリンクチケットが当たるといったものだ。「リアルタイムで参加された方は126万人を超え、アーカイブでの参加者を含めると延べ317万人となり、スマホアプリのダウンロード数は総合1位を獲得しました」と吉田氏は解説した。
視聴者の反響も大きく、製品を買った、飲んでみたいと思った、といった視聴者の声が届いているとし、「心が大きく動いた」ことが見て取れると吉田氏は続け、「視聴者の心を動かすようなテレビCMの新しい可能性が感じられるのではないでしょうか」と訴えた。
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■データと実践から見る広告市場とスポーツマーケティングの変化
電通の甲田氏は本セッションのテーマに対し、広告の成果を従来とは「違う枠組み」から捉える事例として、「CMがデジタル広告に与える影響」「ブランド調査では『嫌われる理由』を見つける」「ターゲットがライバルに奪われたときはチャンス」という3つの分析事例を紹介した。
また、近年のメディアトレンドの変化として、「可処分時間とお金の異種格闘技化」と「流通のメディア化」についても言及した。テレビ局や出版社に加えて、レジャー施設なども新たな接点でイベントや配信を始めていて、「メディアとの関わり方において生活者の時間とお金の使われ方はどんどん変化している」と指摘した。
また、「より買い場に近いチャネルの流通業界自身がメディア化し、これらメディアの周辺で人々の消費が決定されると、テレビなどのリーチメディアが届いたとしても消費に結びつかなくなるような変化が起こりうる」と強調した。
コーセーの小林氏は、同社のブランド・コミュニケーションとスポーツマーケティングの事例を発表。新たな取り組みとして昨年から始めたプロダンスチームのKOSE 8ROCKS(コーセーエイトロックス)の運営も紹介された。
その中で、「かつての日本でスポーツマーケティングは企業のオーナーによる社会貢献的な位置づけであったものが、現在はブランディング要素が付加され、コンテンツとして活用すればするほど協賛する企業にメリットが与えられる時代になってきている」と、時代の変化を感じていると語った。
■広告は区分にこだわらず、きちんと生活者に広告を届けることが大事
セッション後半はパネルディスカッションとなり、インテージが提供するテーマやデータなどに関する三者三様の見方が示され、活発な意見交換が行われた。ここでは「生活者接点としてのテレビ広告について」というテーマについてのやり取りを紹介する。
モデレーターの深田氏は、テレビ広告におけるペイドメディア、オウンドメディア、アーンドメディアについて、昨今取り沙汰されているZ世代の調査結果からも、「アーンドメディアの価値が非常に高まっているのではないか」という指摘をした。
コーセーの小林氏はブランドのプランニングをする立場から、「SNSなどのデジタル広告をもっと使えという話はありますが、データ上ではテレビのリーチ量は一定数あって、SNSで話題になってテレビを観るという循環もあるのでは」という見方を示した。
一方で電通の甲田氏は、この1~2年でデジタル広告がテレビ広告を売り上げで抜いたという点について、「市場全体ではデジタルが優位ですが、広告主がどこにお金を使っているかを見た場合、未だにテレビがおよそ7割を占めている」というデータを提示した。
その上で、テレビとデジタルのどちらが多いかといった点は生活者から見れば意味はあまりないとし、「きちんと生活者に広告を届ける、動かすということを考えた時には、その人が好きな媒体に、その人が見たい広告が出ているかどうかが大事なのではないでしょうか」と強調した。
■ユーザーが減ったメディアは、濃い読者や利用者がいるメディアでもある
SNSのユーザー数が増えているという現状を踏まえて甲田氏は逆に、「ではユーザー数が減っているメディアはダメなのかというと、決してそうではないのでは」と語り、データの紹介を続けた。そこで、「新聞の発行部数は減っているが、全部足したら1800万部という大きな規模であり、毎月4000~5000円払ってでも読んでもらえる濃い読者を持ったメディアと捉えることができる」と言及した。
この見方に対して広告主でもあるコーセーの小林氏は、「新聞は本当に強いメディア。特に年齢層が上の方々に対するプロモーションの時には圧倒的に反応がいい」と語った。そして個人的な意見として、「テレビも新聞と同じでリーチを稼ぐにはすごくいい媒体だけれども、値付け感が何十年も変わっていなくて、その辺のコストバランスが取れればまだまだ戦えるメディアではないか」という意見を示した。
対してフジテレビの吉田氏は、「特にZ世代やデジタルネイティブと呼ばれる方々は情報過多の状態で、企業からの一方的なコミュニケーションは効きづらいというのは事実としてある」として、甲田氏の発言の中の「濃い読者」という言葉に共感を示す。
そして、「一定の濃いユーザーにすごく支援されているスポーツメディアに注力していくことで、若年層のエンゲージメントやブランドアフィニティを高めることはできるのではないか」と言い、「我々テレビは基本的に老若男女、日本全国の方々にリーチするメディアですが、今後は『濃い視聴者』の方々とコミュニケーションできるような番組やイベントにも注力していくべきだと感じました」と語った。
モデレーターの深田氏はこのやり取りを踏まえ、「『濃い』というのは人を動かす、エンゲージメントを高めるといった力を秘めていて、非常に親和性やブランドアフィニティも高いのではないでしょうか」という見方を示し、セッションは終了となった。