株式会社インテージ 事業開発本部 メディアと生活研究センター アナリスト 林田涼氏
“テレビ”は動画含めた「視聴デバイス」に、AVODへの広告出稿も検討が必要〜インテージ調査レポート〜(後編)
編集部 2021/10/13 08:00
動画配信サービスの台頭と同時に注目されている、インターネット結線テレビ「コネクテッドTV」。テレビ放送とOTT(Over The Top:動画配信サービス)をシームレスに視聴できる機能などを特長とし、「視聴デバイスとしてのテレビ」としての大きな役割を果たしている。
一般に「コネクテッドTV」は、スマートテレビなどのOTT(Over The Top:動画配信)デバイスや、「Fire TV Stick」などのストリーミングデバイス、Blu-rayプレーヤー、ゲーム機などを介してインターネットに接続されたテレビ型デバイスを指す。今回はその中から、株式会社インテージが2021年の6月、8月の2度にわたって発表した調査レポートより、スマートテレビにフォーカス。スマートテレビの普及における「テレビの見られ方の変化」を探る。
この記事では、調査レポートを担当した株式会社インテージ 事業開発本部 メディアと生活研究センター アナリストの林田涼氏にインタビューを実施。その模様を前後編に分けてお届けする。
後編となる今回は、同社8月発表のレポート『コロナ禍におけるテレビ視聴行動 おうち時間の増加でテレビの見かたはどう変わった?』に注目。コロナ禍による視聴行動の変化をなぞりながら、新たに生まれつつある「テレビの見られ方」の実態を探る。
【前編】コネクテッドTV普及における「テレビの見られ方の変化」〜インテージ調査レポート
【参照】コロナ禍におけるテレビ視聴行動 おうち時間の増加でテレビの見かたはどう変わった?(株式会社インテージ)
■GW、お盆シーズンにアプリ経由の視聴が突出。テレビ全体も年末年始の視聴率が増加
──コロナ禍における「おうち時間」の増加にともなう、テレビの視聴行動の変化が取り沙汰されています。2020年の第1波に比べ、第2波、第3波での変化は比較的小さかった印象がありますが、直近の第4波における状況はいかがでしょうか。
林田氏:今年の夏においては、大規模スポーツ大会の影響もあってテレビの視聴時間は増えましたが、それ以外の時期はほぼ平たいラインとなっており、大きな変化がありませんでした。
初めての自粛生活となった第1波の時期は、「おうち時間」の過ごし方がなかなか定まらなかったこともあり、テレビ視聴に費やす時間が長くなりました。しかし第2波、第3波と続くにつれて生活者の間にも「おうち時間」の習慣が身につき、結果、テレビ視聴以外の過ごし方をする人々が増えてきたという見方ができそうです。
──スマートテレビにおいては、テレビにインストールされたOTTのアプリを介した視聴が非常に多いことが、前編の調査結果でも明らかになりました。コロナ禍におけるテレビ内アプリの利用率は、どのように推移しているのでしょうか。
林田氏:スマートテレビにおける「テレビ内アプリ」の利用率は、高止まりの傾向にあります。コロナ禍直前の2020年1月に対し、平均120%の割合で推移していましたが、8月中旬には夏休みの影響もあって140%程度に伸びました。
従来、テレビ放送の視聴率は7〜8月の夏休みシーズンと年末年始に大きく伸びる傾向にありましたが、アプリ経由での視聴の場合、5月のゴールデンウィークと8月のお盆休みの時期に顕著な増加が見受けられました。連休期間中、政府や自治体によって外出自粛が強く呼びかけられていたこともあり、「出かけるかわりにアプリで動画コンテンツを見る」という習慣が定着しつつあることを伺わせます。
──そのほか、コロナ禍が関連していると思われる変化はありますか。
林田氏:コロナ前を含め、直近2〜3年は「長期休みのあいだにテレビが点けられているか」という面にフォーカスしているのですが、コロナ禍に突入した2020年末には興味深いデータが得られました。通常、全体の1割程度は「年末年始にまったくテレビを点けない」という層が出てくるのですが、2020年末には一転して「テレビを点けている」割合が増加したのです。
これまで年末年始は旅行や帰省に出かける人が多く、テレビのない場所にいる=テレビを点けていないという割合が多かったのですが、昨年末の状況を見ると、「ステイホーム」が進み、それにともない年末年始も「点いている」テレビの台数が多くなったものと思われます。
■在宅勤務で「BGM的」なテレビの見られ方が増加。スマートテレビは「休日の昼」が“ゴールデンタイム”
──コロナ禍でテレビに訪れた視聴習慣の変化のうち、特に注目すべき部分は?
林田氏:テレビ放送においては、とくに平日の視聴習慣に大きな変化が現れました。これまで通り、朝、昼、夕〜夜にかけて3つの山が見られることに変わりはないのですが、平日の朝の山がやや低めになる一方、昼の時間帯の接触率が高めになっていることがわかります。
この背景として考えられるのが、在宅勤務の普及による生活習慣の変化です。出勤が減ったことによる朝の起床時間の“ばらけ”や、昼間、在宅勤務の休憩時間に点けたテレビをそのままBGMがわりにつけっぱなしにしているといった行動が読み取れます。ゴールデンタイムの盛り上がりも従来に比べて2時間程度早まっており、勤務時間を終えてそのままテレビを点けるという流れが生まれているのではないかと推測されます。
──スマートテレビ、アプリ経由での視聴習慣は、コロナ禍においてどのように変化していますか。
林田氏:アプリ経由での視聴習慣は、平日は17〜18時にかけていったん伸びますが、テレビ放送の視聴が増える19時ごろにいったん接触率が下がり、その後21時ごろをピークにふたたび増加しています。
ほかにも、テレビ放送の視聴が減る10〜11時ごろに小さな盛り上がりを見せるなど、テレビ放送との“切り替え”を感じさせるような動きを見せている点が特徴的です。放送とアプリをボタンひとつで切り替えられるスマートテレビならではの動きともいえるでしょう。
──スマートテレビにも「ゴールデンタイム」は存在するのでしょうか。
林田氏:現在わかっているのは大まかな単位ですが、アプリでの視聴は休日の昼を中心に山が生まれています。通常、放送とアプリの接触比率は4:1から5:1程度なのですが、休日の昼には、最大で2:1ほどまでに縮まることがわかりました。
地上波テレビが見られる時間帯が圧倒的に多い状況は変わっていませんが、アプリ経由での視聴が伸びているのは、たしかな事実といえるでしょう。
──テレビとスマートテレビ、それぞれ「見られ方」としてどのようなかたちが考えられますか。
林田氏:「ひとりでじっくり見たい番組」はアプリで、「みんなで見たい番組」は放送で、という棲み分けがなされているように思います。
スマートテレビの保有者層を見ると、1世帯より2世帯同居、賃貸より持ち家が多い傾向にあり、「しっかりと家族でテレビを見ている」印象が見受けられます。休日はテレビの大画面でアプリ視聴を楽しみつつ、家族での食事時にはテレビにスイッチして団らんのBGMとして楽しんでいるのではないでしょうか。
■“テレビ”は動画含めた「視聴デバイス」に、AVODへの広告出稿も検討が必要
──調査結果からは、テレビにおける「放送」と「配信」の距離がますます近づいているように思えます。
林田氏:視聴時間帯を見ても、アプリとテレビがつながっているような波が見えています。「テレビを見ながらスマホを触る」という視聴スタイルもかなり浸透してきました。コロナ禍の影響もあり、デジタルがいっそうテレビに近づいてきたと見て間違いないでしょう。
──とくにスマートテレビにおいては、放送とアプリが同じリモコンに同居しています。「ザッピングのされ方」についても、これからは変化していくのでしょうか。
林田氏:地上波におけるザッピングでは、隣にあるチャンネルへと移動する割合が高いのですが、その一方でスマートテレビを中心に、地上波から「アプリ」へ移動する人が一定数存在することも明らかになっています。現状、視聴割合としてはまだまだ地上波の占める割合が高いので、直近で有意な変化を示せる段階にはありませんが、このあたりの動向は、今後も年単位で注視していきたいと考えています。
──今回の調査結果を踏まえ、テレビ局・広告主としてはどのような点を意識すべきでしょうか。
林田氏:前述の通り、デジタルとテレビの垣根は極めて低くなっています。一連のコロナ禍を通じてテレビは「高画質・大画面の視聴機器」として再認識され、「“テレビ”で動画を見る」という習慣が「新しい生活様式」として定着しつつあります。放送局レベルでいえば、テレビよりもアプリのほうが視聴率が高い時間すらも出てきているのです。
テレビの見られ方が変化するなか、今後は民放公式の見逃し配信サービスであるTVerやYouTubeといったAVOD(Advertising Video OnDemand:広告型無料動画サービス)への広告出稿も、「“テレビ”で見られる可能性があるもの」として、これまで以上に考慮して検討する必要があるでしょう。
今後も、テレビというデバイスが人々の生活にどのように関わっていくのか、引き続きデータをもとに観測していきたいと思います。