テレビに求めるのは“普遍的な幸せ” 〜産業能率大学 小々馬敦ゼミ「大学生のテレビとネット動画視聴実態」ウェビナーレポート〜
編集部
産業能率大学 小々馬敦ゼミと(公社)日本マーケティング協会共催のウェビナー「ティーンズと大学生のテレビ視聴実態を報告!『コロナ禍後に、Z世代のテレビ離れは加速しているのか?』」が2021年7月16日に開催。「コロナ禍後のZ世代のテレビ離れ」をテーマに、ティーンズ(高校生)と大学生の現況についてまとめ、報告した。
今回はこのなかから、セッション「大学生のテレビとネット動画視聴実態 〜コロナ禍を経ての変化〜」の模様をレポート。産業能率大学 小々馬敦教授によるプレゼンテーションをメインに、随所で同ゼミの学生がコメントを行うという形式で行われた。
■“細切れスケジュール”が連続する大学生、リアルタイム視聴は少数
小々馬ゼミでは、ビデオリサーチ ひと研究所など協力社と共同で、高校生・大学生におけるテレビ・ネットの視聴環境を調査している。2018年10年にはテレビ視聴実態調査をWEBアンケート形式にて行ったほか、2019年10月には東京と名古屋で日記式による調査、さらに2020年には日記式とIoT(Internet of Things:ネット接続機器)によるハイブリッド型の調査を実施。直近では、今年6月に最新の調査を実施した。
最初に小々馬教授は、2020年10月に産能大の学生34人を対象に実施した「リアルタイムでのチャンネル操作」の調査を紹介。テレビのリモコン操作を記録するIoT機器を設置し、リアルタイムな時系列に沿ってどのチャンネルが見られたかを調べたという。
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「リアルタイムでの調査だったが、当初は全然データが上がってこず、驚いた」と小々馬教授。「不具合かと思い、学生に尋ねたら、『そもそもその時間にテレビを見ていない』と返された」といい、「それぐらい、いまはリアルタイム視聴が少ないことに気付かされた」という。
同調査では、リモコン機器のチャンネル操作データに加え、日記式で時系列ごとにリアルタイムでの視聴番組を調査。回答によると、「リアルタイムで視聴している番組は週に1〜2枠」で、ジャンルとしてはバラエティが多く、「ドラマは全部録画しているし、まとめて見たいという声が聞かれた」という。
「リビングで過ごす時間そのものは極めて長く、テレビの前にもいるが、テレビを視聴しているというよりも、実際は手元のスマホに没入している時間が長い」と、小々馬教授。
「テレビは基本“つけ流し”で、スマホを操作していることが多い。親からも『どっちを見ているの?』と聞かれる。『きのう何を見ていたか』尋ねられても思い出せないくらい」(小々馬ゼミ学生)
さらに小々馬教授は、1日における学生の時間の使い方が極めて細分化していると指摘。「イベント(ごと)、隙間(時間)、イベント、隙間…… と連続している」といい、現状のテレビ局の時間編成と大学生の生活時間には乖離があると語る。
「『逆L字(平日夜と週末全日に集中して出稿すること)』という言葉があるように、月〜金は働いていて、夜や土日が余暇の時間とされているが、大学生だけでなく就職している卒業生に聞いても、まったくその通りではない」(小々馬教授)
「ゴールデンタイムには家にいないので、その時間リアルタイムでテレビは見ない」(小々馬ゼミ学生)
「暇さえあればInstagramを見ている。気がつくと1時間経っていた、ということもしばしばある」(小々馬ゼミ学生)
■テレビは持たないが、“テレビのある暮らし”は欲しい。共感を育む「家族視聴」の強さ
続いて小々馬教授は、2021年6月に東京・大阪・九州の大学生を対象に実施したWEB調査の結果を紹介。「将来家族を持ったときに、テレビは必要か」という質問に対し、過半数にあたる50.7%が「必要だ」と回答した。一方、「プロジェクターと大きなスクリーンがあれば、テレビはいらない」という回答は12.7%。小々馬教授はこれらの結果から、「家族のだんらんの場にテレビはあってほしい」という意図があるのではないかと推測する。
「家族一緒にリビングで過ごす時間が『気まずい』という気持ちがあり、(気まずさを緩和するために)『常に何かが流れるBGM的なもの』としてテレビが求められている」と小々馬教授。それを裏付けるように、「家族がだんらんできる空気が必要だ」という回答も多くなっていると語った。
その一方で、「一人暮らしの大学生においては、ほとんどの人がテレビを買わないと回答している」と小々馬教授。その背景として、「別のスクリーンで代用できる(=テレビ番組を視聴できる)ので、わざわざテレビ受像機を買う必要を感じないのではないか」と指摘する。
「テレビ受像機が欲しいことは欲しいが、お金があれば、他のものを買うことを優先してしまう」(小々馬ゼミ学生)
「昨今、リビングのテレビに映っているのは、地上波ではなく、NetflixやAmazonプライム・ビデオであったり、YouTube(のお気に入り動画を)家族で見せあっている感じなのではないか」と小々馬教授。これに対し、小々馬ゼミの学生は次のように語る。
「韓流アイドルが踊っている動画などを見ていたら、母親もハマってしまい、一緒になって見るようになった。リモコンに『YouTube』ボタンがあり、直接テレビでYouTubeを視聴することが多い」(小々馬ゼミ学生)
その一方で、「テレビで地上波を見る」と回答した学生も。家庭ではチャンネル権の占有や、取り合いなどは起こらないという。
「なんとなく、みんなで見るものが一致している。誰かがチャンネルを回してみんなで見るから、誰かに特定の選択権があるということはない。ずっと特定のチャンネルになっているわけではなく、『月曜はだいたいこう、火曜日はだいたいこのチャンネル』というように、曜日ごとに見るものがなんとなく定着している」(小々馬ゼミ学生)
これを踏まえ、小々馬教授は「家族一緒に見られる番組が欲しいが、意外と少ない」という回答を紹介。これについて、小々馬ゼミの学生のひとりは次のように語った。
「私の家では父親か祖母がチャンネル権を握っていて、NHKのニュースから『プロフェッショナル 仕事の流儀』などに流れていくことが多い。ある意味『家族と一緒に楽しめるテレビ』ということになるのかもしれないが、『一緒に楽しめる』というよりかは、『(なんとなく見ていて)なんか面白い(と感じることもある)』という印象」(小々馬ゼミ学生)
「テレビの評価指標が世帯視聴率から個人視聴率へとシフトしているが、『家族やきょうだいで見ている』という環境も、意外と重要なのではないか」と小々馬教授。「Z世代は前提に企業や商品への共感がなければ広告を注視しないし、認知だけで購買にはつながらない。
共感は気の合う人と一緒にいる環境で形成されやすいので、パーソナル視聴のネットよりも、テレビの視聴環境の方が広告メディアとして優位な点もある」といい、「視聴率も大切ではあるが、視聴の質を考えると、家族や友人、兄弟、姉妹などから共感が生まれていくということが重要なのではないか」と語った。
■求めるのは「キュン」より「ギュン」。憧れよりも“普遍的な幸せ”
続いての話題は、ティーンのあいだでトレンドとなっている「胸キュン」に関して。「2021年春のドラマで、見ていたドラマは?」という質問に対し、1位の「ドラゴン桜」は28.6%の回答を集めるも、「ドラマは見ない」という回答は16.7%、「あてはまる番組がない」という回答については41.7%とやや多く見受けられた。
はたして大学生のあいだでは「胸キュン」はどう捉えられているのか。小々馬ゼミの学生が答える。
「私にとっての『胸キュン』の対象は青春ドラマのような、わかりやすいアクションがあるもの。求めているのは『キュン』ではなくて『ギュン』と、激しく衝撃を受けるようなもの。いわゆる『胸キュンドラマ』はこっぱずかしくて見ていられないので、ドラマよりも映画を見てしまうが、自分がティーンズのときだったらキャーキャー言っていただろう」(小々馬ゼミ学生)
「胸キュン」よりも上位にあたる「ギュン」という定義について、学生は「『キュン』よりも現実味のあるもの」と学生。「『キュン』については現実味を感じないが、『ギュン』と感じるシチュエーションについては、実際にありそうで、自分の体験に置き換えてしまう」という。
「高校生時代に感じた『キュン』は『こんなことがあったらめっちゃ嬉しいシチュエーション』だが、私たちが求める『ギュン』は『共感できるシチュエーション』に近い」(小々馬ゼミ学生)
ここで小々馬教授が、「いまの韓国ドラマや、昔の日本のドラマのほうがよい(共感する)」という回答を紹介。その理由として、「最近の日本のドラマはドロドロとしたストーリーで、登場人物がみんな幸せにならないものが多く、見ていて疲れてしまう」というものがあるという。
「最近のドラマはストーリー展開が遅いように感じる。“タメ”が多いわりに、その後の展開に意外性を感じない。ストーリーの結末を早い段階から想像できてしまい、結局『その通り』ということも多い」(小々馬ゼミ学生)
その一方で、「昔の作品の場合は『こうなるんでしょ』という王道の展開を楽しめるというイメージがある」(小々馬ゼミ学生)との声も。同じ「展開が読める」ということについても、ハッピーエンドか否か、というポイントは、「共感」といううえで大きなポイントとなっているようだ。
「韓国ドラマが好きか、日本のドラマが好きか」という質問に対する回答は、「韓国ドラマ」という回答が8.6%に対し、「日本のドラマ」という回答は約8割と大多数。「どちらともいえない」という回答は12.9%だったという。
そのうち、「韓国ドラマが好き」である理由については、「昔ながらの『ベタなドラマが見たい』」というものが多いといい、キーワードとしては「ベタ」「定番」「壮大」といったものが挙げられた。
「個人的な考えではあるが、テレビとは『幸せな姿って、こうだよね』というものをいろいろ見せてくれた気がする」と小々馬教授。「ドラマの題材にもいろんな選択肢があり、倫理や道徳について考えさせられたりと、すごく普遍的なテーマを取り扱っていて、それが自分たちの生活にとって身近であった」といいつつ、「いまはそういったものが少なくなってきているのではないか」と語る。
「これも個人的な意見だが、テレビはもっとポジティブで、『これから先、(私たちが)もっと幸せになるんだ』と思えるようなものを選択肢とあわせて見せてほしい」(小々馬教授)
■“テレビ離れ”がふたたび加速?「ネットに正しい情報がある」という意識の広がり
最後の話題は、「テレビ離れ」という言葉の意味の変化について。小々馬教授いわく、ゼミの学生からは「『テレビ離れ』の質が変わってきている」という声が上がっているのだという。小々馬教授は、2018年に産能大のキャンパスにて実施した、大学生の「テレビ離れ」に関するアンケート調査の結果を紹介した。
「当時の回答の多くは、「『テレビ離れ』はしていない」というものだった」と小々馬教授。「私たちが見たくなるような番組がないから、作ってほしい」という声が上がっていたといい、「『テレビの側が私たち(若者)から離れているのではないか』という提言的な要素が強かった」という。
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その一方で、2021年6月に実施した同様の調査では「テレビはつまらない」「役に立つ情報をテレビから得られない」「ネットで自分は事足りる」など、テレビに対する情報の信頼性の低下を思わせるような回答が見受けられたと小々馬教授は語る。
続いて小々馬教授は、「テレビとネット、どちらを信頼するか」というアンケート調査の結果を紹介。コロナによる1回目の緊急事態宣言が発出されていた2020年5月の調査では、「ネットよりもテレビの情報が信頼できる」という声が76.1%ともっとも多かったが、その後、53.9%に低下し、「結構な割合が、『ネットの情報のほうが信頼できる』という向きに流れていっている」と指摘する。
これに対し、「たしかにそのような流れは感じる」と、小々馬ゼミ学生。「コロナに関する情報は最初テレビでしか流れていなかったが、最近はLINEのトップ画面に出てきたりするので、周りの友達もそれを見ているという人が多い」という。
「テレビをよく見るが、ニュースはテレビであまり見ず、『LINE NEWS』やTwitterのトレンドに上がっているニュースを見る。Twitterの場合、ニュースに対する引用コメントで『なぜこのようなことを報道しないのか』など、マスメディアに対する疑問を呈する声が目に入り、『テレビの情報だけを信用してはいけないのでは』と思ってしまう」(小々馬ゼミ学生)
「上の世代の人々は、『若者は自分の好きな情報しか見ない』と思いがちだが、実際の若者は、さまざまな情報を見比べるセンスに長けている」と小々馬教授。「(いまの若者は)自分なりに情報を分析し、『何が正しいのか』という判断軸を持っている」といい、「その結果、『ネットの中に正しい情報がある』という感覚が強くなっている」と語る。
■「昔のテレビに戻って欲しい」大学生がテレビに伝えたいこと
小々馬教授は最後に、小々馬ゼミ学生が作成した「テレビに対する提言」を紹介。そのなかでは、「昔のテレビに戻って欲しい」という意見や、「期待感をやたらに煽る『CMまたぎ』も、その後の意外性がない」という意見などが見受けられたといい、「前出のリアルタイム視聴における離脱ポイントも、この『CMまたぎ』のタイミングが多かった」と指摘した。
さらに小々馬教授は、同ゼミ学生による「これができたら地上波も見る」という意見を紹介。「TVerで全番組をライブ配信してほしい」「スマホでリアルタイム視聴したい」など、ネット上で地上波の番組をリアルタイム視聴できる仕組みを求める声が多かったという。
「スマホとテレビのリアルタイム視聴は、それぞれ意味合いが違う。番組に集中していたり、携帯(スマホ)での視聴だと、長いCMタイムに耐えられない。30秒が限界かなという感じ。『携帯をいじりながらテレビを見る』というのがちょうどいい感覚。携帯だけで見てしまうと、それができなくなる」(小々馬ゼミ学生)
「結構のところ、大学生はそれぞれいろんな意見を持っている」と小々馬教授。「一概に『テレビだけを見ている』『ネットだけを見ている』と二極化するのではなく、いろんなバランスをとっているように思う」と述べ、セッションを締めくくった。