同時配信時代のローカル局の挑戦(後編)【InterBEE2020レポート】
編集部
(左から)東海テレビ 石井氏、中京テレビ 森本氏、北海道テレビ 高橋氏、境氏
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、毎年幕張メッセで開催している「Inter BEE」を、11月18~20日にわたってオンラインで開催。「メディア総合イベント」のニューノーマルを目指し、オンライン上で様々な展示、並びに50以上の講演、セミナーが実施された。
今回は、その中から放送とネットやビジネスとの「CONNECT」をテーマとし、InterBEEのひとつの目玉企画「INTER BEE CONNECRED」のセッションより、「同時配信時代のローカル局の挑戦」の模様を前後半にわたってレポートする。
NHKに続き、2020年10月に日本テレビがプライムタイム・深夜帯での地上波放送同時配信を期間限定で実施した。これらは視聴地域を制限しないものであり、これまでキー局からの番組ネットを受けてきたローカル局にとってピンチととらえる向きもあるが、これをチャンスととらえ、ネット上での各種サービスを立ち上げる動きも見られる。今回はこうした取り組みを実際に行っている局の担当者を迎え、その狙いについてプレゼンテーション・ディスカッションが行われた。
前編では、各局の事例などについて紹介したが、後編では、各局がビジネス展開において直面している課題やその打開策に関するディスカッションの模様をお送りする。
パネリストは、中京テレビ放送 ビジネス推進局 インターネット事業部 兼 編成局 編成部 森本英樹氏、東海テレビ放送 編成局コンテンツビジネスセンター デジタルコンテンツ部 石井謙吾氏、株式会社中国放送 コンテンツビジネス局コンテンツセンター コンテンツセンター長 中村知喜氏、北海道テレビ放送株式会社 報道情報局 報道部 副部長 高橋啓人氏。モデレーターをメディアコンサルタントの境 治氏が務めた。
■「コミュニティ起点」という視点の重要性
セッション後半は、登壇したパネリスト各局が、お互いの施策について質問をぶつけ合うかたちとなった。
──「カーチカチ!」の場合は、広島カープというリアルなコミュニティに向けたコンテンツとして機能しているが、やはりインターネットの世界に入っていくためには、そういったコミュニティを作っていかなければいけないのか。高橋氏はコミュニティ作りの重要性を説いていたが、何かそのあたりの戦略などがあるのか。(石井氏)
高橋氏:戦略というほどではないが、文化と考えている。たとえば『水曜どうでしょう』などは、「1990年代にYouTuber(的なコミュニケーションを実現)できていた」と評されることもある。つまり、もともとネット的なコミュニケーションと親和性が高かった。私たちのメディアにアクセスしてくださる方々は、『水曜どうでしょう』の黎明期の夢を見てくださっているのかもしれない。北海道テレビは「変だけど、いいよね」と思っていただける存在でありたいと思っているが、その思いがあれば、(展開先は)ネットでもなんでも構わないと思っている。北海道テレビは「テレビ局としてはゆるい」とよく言われてきた。それを正直に続けていくことが戦略、というより文化だと考えているので、これからも粛々とやっていけたらと考えている。
境氏:確かにそこが(北海道テレビの)一番の強みかもしれない。コミュニティを形成するということは、(メディア展開の上でも)やりやすいのかもしれない。
高橋氏:報道面でいえば、極端な話「友達の友達は友達」的な繋がりを活かして、取材のしかたも全然変わってくるだろう。まだまだローカル局にはできることがある。
■運営体制はどのようにして作る?
──(高橋氏へ)YouTubeでニュースを展開しているが、いったい誰がどういうふうに運用しているのか。私たちもニュースをネットで出したいが、人手や手間の問題が絡んでなかなかクリアできていない。どのようにうまくやっているのか(中村氏)
高橋氏:これも(局内の)文化が大前提だと思う。「北海道ニュース24〜HTBニュースLIVE」の場合は、報道の現場のスタッフたちが自ら「やりたい」と立ち上げ、技術スタッフを巻き込むかたちで運営している。基本的に「やる」という前提ができている。システム的なノウハウよりも、基本は運用(へのモチベーション)。ただ機械的にシステムを立ち上げても、魅力的なものは生まれない。エバンジェリスト的に動く人がいれば、そうした状況も変わってくるのではないか。
──複数社が共同で運営する場合、たとえば一方の局には利益があるが、もう一方の局にはそうではないというようなフリーライド(ただ乗り)問題が出てきてしまうのではないか。利益の配分など、そのあたりの調整はどのように行っているのか(高橋氏)
石井氏:基本的に、コンテンツに紐づく利益の部分はコンテンツホルダーのものになっていく。それ以外共有の部分というのは配分、均等割という形で担う。逆にコストに関しても、共通費用を出しあうかたちで、それをどう使っていくかを話し合っている。
境氏:共通費という財布を作ってあるということか。
石井氏:(共同で)使っていくもの(のコスト)を共通で払っていく、ということ。
森本氏:逆に1局がお金を出して「ここだけ直したい」と言っても、なかなか難しい。そこはちょっともどかしい部分もあったりする。
──「Locipo」は地域の他メディアとの連携を具体的に進めようとしている?(セッション視聴者からの質問)
石井氏:まだLocipo自体がそこまでの力を持ったメディアになりきれていないと感じる。やはりそういった魅力があるメディアになっていかなければ、いい地域連携はできないと思う。当然、メディアとして対等なレベルにまで成熟したあかつきには、手を繋げていかなければいけないと思う。そうした地域連携の総合アプリになれるところまで成長させたい。
■地元に目を向けるか、全国に目を向けるか。
──放送エリア外からのアクセスについてはどう受け止めているか(境氏)
高橋氏:あくまで個人の意見として。ネットで展開する以上、全国や東京のコンテンツが北海道に上陸してくる向きもあるだろうし、われわれのコンテンツが(県外へ)行くこともある。「北海道のメディア」なので、北海道が盛り上がることにつながればよい。日本各地から北海道に来ていただくコンテンツ的な意味でも、収益につなげるという意味で、そうした流れを作るジェネレーター的な存在にならなければ意味がないと思っている。
中村氏:ローカルで情報発信することには慣れているが、ネットで全国に情報を流すことはまだ経験不足なところがある。どういったニーズがあるのか、どういった周知の仕方があるのか、まだ上手いこと作戦が取れてないのが悩みだ。
境氏:課金という面でいえば、全国から収益を上げられるというメリットは大きいのでは。
中村氏:どういったことに課金していただくことがメリットと受け取ってもらえるか。広島(での地上波放送)では他の球場での試合も放送しているが、アプリでの配信は全国をエリア向け扱いになるため(放映権上)流せないという問題があったりする。地元のためなのか、全国のためなのか、権利のはざまで漂流している感じ。
境氏:全国に出せるがゆえに生じる権利の問題もある。今後、こうしたサービスにとって重要なファクターかもしれない。
石井氏:あくまで個人の見解だが、まずはやはり東海3県のエリアに来ていただくように進めていきたい。「Locipo」というサービスをつねに一番最初に使ってもらえるようになるために何ができるかを考えたい。その先に、周辺地域や全国への展開があるのではないかと思う。
──サービスのインフラ化という観点は、ローカル局にとっては非常に大事な視点ではないかと思う(境氏)
中村氏:個人的な意見だが、「カーチカチ!」は、カープファンのあいだで必須アイテムとなるような存在でいたい。たとえば球場で入場券代わりになったり、カープファン同士のやりとりの起点となったり、そのような基盤となりたい。
境氏:「Locipo」が開始したアプリ限定のサービス「どこ行く」(番組内で取り上げた飲食店やイベントの情報を配信するサービス)など、かねてからローカル局さんが(このようなサービスを)やればいいのにと思っていたことだった。ネットに出ることによって、映像コンテンツを送り届けるというテレビ放送本来のサービスからさらに広がっていくのではないか。
■「共闘体制」「コミュニケーションの集約」「企業へのメリット強化」… 各局が掲げる今後の目標
──今後、さらに考えている取り組みなどはあるか(境氏)
高橋氏:(局間での)共創、共闘を推し進めていきたい。当社が運営している「HTBonちゃんアプリ」も、愛媛県の南海放送が開発した仕組みをベースとしたアプリをリリースしている局間で「アプリ連合」のようなつながりがある。また、エンジニア間では「Media-JAWS」というワーキンググループがあり、当社のシステムを開発しているエンジニアや、キー局のエンジニアも参加して交流が行われている。いわばこれもデベロッパーリレーションズとして、共闘しているともいえる。当社でも「SODANE」というメディアを通じて(インサイドな情報発信を)展開している。アーキテクチャについては、こちらから情報と出すと、新たな情報が入ってくる。「自分たちはこういう(本業の)会社である」と自らくくってしまっては未来がないと思う。(これまでと)違う事をどんどんやって、変わり続ければいけない。
中村氏:現在はSNSがそういう役割を担っているが、「カーチカチ!」を通じてカープ球団が情報を発信したり、ファンからも発信ができたり、カープを応援しているお店の情報があったりと、すべて集約されるような最終形になっていけばと個人的に考えている。
石井氏:インターネット上に地域のマス(メディア)を作りたいという思いがもっとも大きい。ビジネスのやり方も、今までの放送ビジネスとは違ったやり方にもしていかなければいけないと思う。それがすごい大きなものになる可能性もあるし、失敗するかもしれないが、そういうのを開発していくことが一番必要なのではないか。4局集まって共創しているという強みを生かしながら、地域のみなさんに役立つ総合アプリとしての立ち位置を作り上げていきたい。
森本氏:地元の企業に愛されるアプリになれば、マネタイズの部分でも重要な存在になれるはず。最終的にそこを目指したい。
かなり赤裸々な部分にまで踏み込むかたちで、活発に行われたディスカッション。「民放は企業と一緒に(ビジネスを)やるもの。企業とそのエリアの人々を結ぶのが、民放の(根幹的な)ビジネスモデルである」と境氏。「企業にもちゃんとメリットを示せるような仕組みができたら、新しい放送局のビジネスモデルができていくのではないか」と締めくくった。