株式会社TVer 代表取締役社長 龍宝正峰氏
5周年を迎えた民放公式テレビポータル「TVer」の未来〜【InterBEE 2020レポート】
編集部 2020/12/29 08:00
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、毎年幕張メッセで開催している「Inter BEE」を、11月18~20日にわたってオンラインで開催。「メディア総合イベント」のニューノーマルを目指し、オンライン上で様々な展示、並びに50以上の講演、セミナーが実施された。
本記事では、その中から放送とネットやビジネスとの「CONNECT」をテーマとし、InterBEEのひとつの目玉企画「INTER BEE CONNECRED」のセッションより、「5周年を迎えた民放公式テレビポータル『TVer』の未来」の模様をレポートする。
今年9月にアプリ累計ダウンロード数が3,000万を突破し、テレビ受像機向けサービスにも進出しているTVer。今年7月には民放各社の出資による新体制へと移行し、10月からは日本テレビ系列局の地上波同時配信トライアルもスタートした。本セッションでは、これからのTVerの取り組みとその狙いについて、株式会社TVer 代表取締役社長 龍宝正峰氏によるプレゼンテーションが行われた。
■TVer新体制の目標は「テレビの未来を放送局と一緒に作っていく」
今年でサービス開始から5年を迎えるTVer。今年9月にアプリ累計ダウンロード数が3,000万を突破した点にふれ、龍宝氏は「サービスとしては順調に成長している」としつつ、「動画広告市場が急速に成長しているいっぽうで、我々キャッチアップメディアにはそれが波及していない」と課題意識を見せる。
「動画広告全体の売り上げのなかで、キャッチアップの占める割合はわずか数%程度。これをどう増やしていくか考えなければならない」と龍宝氏。「TVerというサービスのミッションやビジョンを明確化し、自律的、主体的に運用できる体制を構築するため、TVerの運用を担当していた『株式会社プレゼントキャスト』にキー局から資本と人材を投入し、『株式会社TVer』として新体制を切った」と語る。
そして龍宝氏は、「まずは強いプラットフォームになり、ユーザーを一気に拡大させることが重要。そのうえでTVerとしてのセールス体制を構築させていきたい」と語った。
■自由な時間に番組を楽しめる視聴スタイル「パーソナルタイムシフト」を推進
「強いプラットフォームを構築するため、TVerに『パーソナルタイムシフト』というコンセプトを導入する」と龍宝氏。
時間、場所、デバイスを問わずにいろいろな動画コンテンツが楽しめるようにしていく、というのがパーソナルタイムシフトの発想。これを実現していくべく、コンテンツ力を高めていくことが大切だとし、
「同時配信や『追いかけ配信』のほか、放送局の制作するスポーツコンテンツの試合終了までの配信、記者会見の配信など、(地上波の)テレビでは(編成の都合上)やらないものをTVerで配信する」ことを視野に入れ、「ユーザーニーズに合ったいろんな動画コンテンツを流し、(ユーザーが)自分の時間軸で自由に動画コンテンツを楽しめるようにしたい」と龍宝氏。
また、TVerの認知拡大についても「放送局のリソースを使った効率的なプロモーションもさらに推進していきたい」。さらに、メディアデータの有効活用など、さまざまな手法を駆使して「TVerを大きくしていきたい」と語った。
■放送局の広告在庫共通化を実施
「放送局がそれぞれ個社で行ってきた広告セールスについて、昨年11月から(民放キー局)5社の在庫を一括して販売するトライアルを実施してきた。今後はこれをさらに拡張させたい」と龍宝氏。「在京5社、在阪5社あわせて10社の在庫を共通在庫化し、それに合わせたスポンサーの大口出稿を獲得したり、TVerが持つ視聴データを用いた新しい広告社商品を開発したりしていきたい」という。
「TVerが放送局キャッチアップセールスのエコシステムを構築することもなどもふくめ、新しいセールスを構築したい」と語った。
■テレビデバイス対応で「地上波以外にも『テレビ』を見ていただく」
UI/UXのアップデートを進めているTVer。今年9月には最大1.75倍のスピードで番組を視聴できる「倍速再生機能」に対応。現在10%強のユーザーが利用しているという。
「さらに今後は、現在の横型に加えた『縦型再生』にも対応予定」と龍宝氏。「上に(番組)映像があり、その下(の画面領域)でいろんなコミュニケーションをとったり、情報が読めたりするようになる」という。
昨年の4月から始まったテレビデバイス向けサービスでは、すでにソニーやシャープのテレビ受像機をはじめ、AmazonのFire TV Stick、ケーブルテレビ大手J:COMのセットトップボックス「J:COM LINK」に対応。今年6月にはパナソニックのテレビシリーズ「VIERA」にも対応するなど、その範囲を随時拡充させている。
さらに、今年7月にはChromecast対応をAndroidで先行リリース、10月にはiOSにも対応した。「ユーザーのみなさまからも『テレビで見ることができるようになった』という喜びの声を多くいただき、サービス拡張に向けて大きな手応えを感じている」という。「実際にテレビデバイス経由で視聴するユーザーが、この1年間で非常に増えている」と新しい視聴スタイルが定着し始めていることを説明した。
「すでにテレビの画面は有料配信やYouTubeなどと“取り合い”の状況」と龍宝氏。「放送波だけでなく、こうした視聴方法も含めてユーザーのみなさまに接していただけるサービスにすることも必要」と、その重要性を語った。
■スポーツ中継、番組連携ライブイベントなどライブ配信にも注力
続いて龍宝氏は、TVerにおけるライブコンテンツについても展望を述べた。
「2018年の平昌冬季オリンピックの際、『gorin.jp』をTVerで配信したことを皮切りに、在京キー局で視聴ニーズの高いスポーツ中継のライブ配信をTVer上で増やしている」と龍宝氏。「ニューイヤー駅伝とかバレーボールのワールドカップ、昨年はラグビーのワールドカップなどの人気コンテンツをTVerを通じて配信してきた」という。
昨年2月には総務省の実証実験として、在京5社共同で夕方の報道番組などの時間帯に地上波同時配信。今年10月からは「日テレ系ライブ配信」として、日本テレビ・読売テレビ・中京テレビの系列3局が地上波のプライムタイム帯番組において地上波同時配信をトライアルで実施。
「TVerのユーザー層は女性が中心だが、スポーツの場合は男性のユーザーが非常に多くなる」と龍宝氏。「今後ユーザーを広げていくうえで、スポーツコンテンツは一つの材料になる」と期待をのぞかせる。
これを踏まえ、TVerでは全国高校サッカー選手権大会の試合を「地方大会の決勝から本大会の方もライブ配信していく」と龍宝氏。「リアルタイムでテレビを見ながら、TVerでは別の試合を並行して見ることができる」と呼びかけた。
このほか、バラエティ番組においても「テレビ東京が今年秋に放送した謎解き深夜ドラマ『歴史迷宮からの脱出』や、テレビ朝日『ロンドンハーツ』における『50PA(お笑いコンビ『ぺこぱ』が扮した番組内バンド)のライブ配信イベント』など、同時配信でインターネットともに楽しんでいただくことを前提とした番組も出てきている」という。
「番組と連携したエンターテインメントコンテンツのライブ配信にも取り組んでいきたい」と龍宝氏。「パーソナルタイムシフトを実現できるプラットフォームとして、ライブ配信も含めた放送局が発信する全てのコンテンツがここに来ればあるという形にしたい」と、姿勢を示した。
■“正解率93.7%”のターゲティングを実現する新サービス「TVer広告」
続いて龍宝氏は、TVerが展開する広告商品「TVer広告プラットフォーム」について説明。
「放送局がこれまで個社でセールスしてきた部分はそのまま残しつつ、放送局の在庫をまたいでTVerでセールスする体制を作る」と龍宝氏。
「TVer PMP」は、「TVerで内製化したSSPに、当社が認定したDSP事業者様からご発注を受けて展開する」商品。
そして龍宝氏は2つ目に、新サービス「TVer広告」を紹介。
「TVerが持っているユーザーデータやコンテンツメタデータを活用し、TVerならではの広告商品を作ってセールスしていく」という。
さらに「コネクテッドTVでも同じようにターゲティングが可能になる」と述べ、「この部分に関してはかなり強いポイントになる」とアピールした。
■「この1年で3,000万ユーザー」「地上波とのデータ連携・全番組配信」TVerが描く今後
最後に龍宝氏は、TVerが目指す今後の展望について紹介。「まずは2,000万人のユーザーが毎月見ていただけるようなサービスにしたい。それを何とか今年度内に達成したい」と意気込む。
開催が予定されている東京オリンピックについても「TVerにとっては非常に大きなチャンス」と龍宝氏。民放連が進める『gorin.jp』とTVerでタッグを組み、テレビの視聴とそれを補完するキャッチアップ・ライブ視聴をここで強化していく構えという。
「こういうサービスがあるということをもっと認識していただき、定着してもらえるチャンスと考えている」と龍宝氏。「2022年2月には北京の冬季オリンピックも開催され、2021年度は夏と冬のオリンピックが同時にある年となる」とし、「ここで一気にユーザーを増やし、何とかこの1年でさらに月間のユーザーを3,000万まで増やしたい」と期待を語った。
さらに「地上波テレビとTVerの視聴データ連携も考えていきたい」と龍宝氏。「データの有効活用によるテレビの視聴率アップの施策も可能で、データの活用はこれからさらに重要になる」という。
「ゆくゆくは、地上波で放送される全ての番組をTVerで配信できないかと考えている」と龍宝氏。「朝起きたら『昨日テレビでどんなことがあったのか』と、TVerを立ち上げてチェックしていただく、そんなサービスにしていきたい」と述べ、セッションを締めくくった。