コロナによって加速するコンテンツのDX化 その本質を探る~【Inter BEE 2020レポート】
編集部 2020/12/14 09:00
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、毎年幕張メッセで行っている「Inter BEE」を、今年は11月18~20日の3日間にわたりオンラインで開催。「メディア総合イベント」のニューノーマルを目指し、オンライン上で様々な展示、並びに50以上の講演、セミナーが実施された。
本記事では、その中から放送とネットやビジネスとの「CONNECT」をテーマとし、Inter BEEのひとつの目玉企画「INTER BEE CONNECRED」のセッションより、「コロナによって加速するコンテンツのDX化 その本質を探る」の模様を紹介。コロナ禍により多大な影響を受けているテレビ、コンテンツ、エンタメの業界の現状をなぞりつつ、今後の展望について議論が行われた。
パネリストは、松竹芸能株式会社 取締役の小林敬宜氏と、株式会社ドワンゴ 専務取締役の横澤大輔氏。リアルとデジタルを代表する両社の取り組みは今後の示唆に富んだものとなった。モデレーターを株式会社LivePark 代表取締役社長の安藤聖泰氏が務めた。
■コロナ禍により、5年後がいきなりやってきた!
多くの産業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、5Gの展開が本格的に始まると予想された2024~25年に進展すると考えられていた。しかしコロナ禍によりテレワークなどの働き方改革が一気に進み、学校のリモート授業なども含め社会構造の変化が起こっている。
モデレーターの安藤氏は、「自分は1年前にエンタメ分野でのリアルタイムコミュニケーションを重視したライブ配信とマネタイズを見据えて、LiveParkを立ち上げました。その時は5年後だと考えていた市場が、いきなり今年に来てしまいました」と、この急激な変化について想像できなかった状態だと語る。
続けて、「一部の巣ごもり需要に恩恵を受けた業界以外は、何らかの大きいインパクトを受けています。コンテンツ業界も例外ではなく、浮き彫りになった課題、DXで大事にすべき本質がどこにあるのかを話し合います」とセッションの目的を説明した。
■リアルとデジタルの融合、“ニコニコ超会議”で“超歌舞伎”が演じられる
映画から落語、お笑いまで、タレントの営業・開発に携わる松竹芸能の小林氏は、「まず、イベント系がほぼゼロになりました。グループの歌舞伎座や映画館もすべてクローズとなり、タレントたちはどこへ向かえば良いのか迷っていました」と衝撃の大きさを語る。
ネットビジネスを中心とするドワンゴの横澤氏は、「基本的に会社はネットですが、僕はイベント、リアルビジネスなどをやっていたので、影響は大きかった」と言い、もう一度ネットに戻るという方法で建て直しを始めたという。
セッションでは多くの取り組みにおけるコロナ禍の影響が明らかになったが、ここではパネリストとして参加した両社が協業した“超歌舞伎”について紹介する。
松竹グループは2014年からドワンゴが開催する“ニコニコ超会議”のイベントに“超松竹”という出展を行っていた。近年では、デジタルと伝統芸能の融合となる“超歌舞伎”の演目を提供していた。
しかし今年は無観客、オンライン配信での“ニコニコ超会議”となったため、“超歌舞伎”については、「どうすれば、お客様がいなくてもコミュニケーションを取りながら演目を成立させられるか」が課題になったと横澤氏は語る。
小林氏は、「舞台ではお客様との呼応関係がすごく大事」だと言う。例えば歌舞伎には、「大向う」という客席から掛けられる声があり、舞台の非常に大きな要素となっている。そして、「お客様との盛り上がりのポイントで演者は呼応関係を常に意識しているので、演者も栄養剤として頑張る」と続け、顧客は舞台の盛り上がりには欠かせないものだと語る。
そこで横澤氏はこの課題の解決策を提案。「ニコニコ動画で重要なキーである、画面を右から左に流れるコメントはお客様の歓声ではないか、そして大向うはスタンプを投げることで表現できるのではないか」。この取り組みでは、画面の中でインタラクティブ性が発揮され、“ニコニコ超会議”での“超歌舞伎”は好評を博した。
中村獅童と初音ミクという、リアルとデジタルの融合そのままの組み合わせで演じられた舞台は、無観客ならではの普段では考えられないカメラアングルや、ARによる演出、NTTの“Kirari!”という技術も採り入れられ、歌舞伎の新しい進化系をオンラインで見せる取り組みとなった。
■DXでどういう世界を作るのか、という意識が重要
セッションの後半は、コンテンツのDXとは何かという議論になった。横澤氏は、「デジタルとリアルという観点からは、デジタルは合理化・効率化で生産性を上げて進化し、リアルには温かみや熱量、熱狂といったフィジカルな部分を担っていました」と言い、コロナ禍でパラダイムシフトを起こしていると指摘する。
リアルに制限がかかってしまったため合理化・効率化が求められ、デジタルには温もりや熱をどう再現するかという課題に向き合っているのだと言う。そして、「リアルはムダがある状態で、ムダなもので遊んでいるのが羨ましい。エンタメのDXは、合理化・効率化したうえで、どこにムダを入れるか。作り手の伝えたいことは、ムダな所に表れるのでは」という持論を展開した。
また、「でもDXが目的になるとDX以上のものは生まれてこない。DXを手段にしてどういう世界を作りたいかというところから取り組んでいかないといけない」と締めくくった。
この指摘を受け、小林氏は「ムダと間(ま)があるからこそエンタメはできている」と端的に表現した。また、「コロナ禍がなくなったのでリアルだけしかやりません、というのはない。リアルとデジタルをどう融合させていくか。リアルの一期一会の関係性をもっと充実させていかないといけない」と今後の抱負を述べた。
そして、「ファンとの向き合い方をもう一度、リアルが特別な場所になるようにする。DX(デジタルトランスフォーメーション)で、DX(デラックス)なエンタメになるように」と、本セッションをまとめた。