政府支援の国際共同制作プロジェクトPRの狙い~「TIFFCOM2020」レポート前編
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
日本で唯一の国際映画製作者連盟公認の国際映画祭である「東京国際映画祭(TIFF)」併催の国際コンテンツマーケット「TIFFCOM」が今年は完全オンライン形式で11月4日~6日の3日間にわたって開催された。そのなかで柱の1つにあったのがセミナー企画だった。日本政府が支援する共同制作プロジェクトを紹介する機会も設けられ、民放ローカル局による成功事例が共有された。海外パートナーとどのように実績を積み重ね、成功に至ったのか。プロジェクトの概要と共にセミナーで報告された内容を前後編にわたってお伝えする。
■初のオンライン開催、ローカル局も多数参加
TIFFCOMの開催は今年で17回目を数えた。新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、世界各国のコンテンツマーケットがオンライン開催に踏み切るなか、TIFFCOMも初の完全オンライン形式で実施された。映画、放送、配信の流通市場トレンドを学ぶ機会として、これまで以上にセミナー内容が強化され、アマゾン・ジャパンPrime Video事業本部長ロバート・アーリー氏や日本のアニメを扱う米動画配信サービスクランチロールGMジョアン・ヴォガ氏の特別講演などが企画された。日本テレビとテレビ朝日それぞれが共同制作の海外パートナーを招き、開発の舞台裏を明かすセミナーも用意された。そして、総務省が支援を続ける海外共同制作プロジェクトの成功事例を語るセミナーも目玉のひとつにあった。
冒頭、同プロジェクトを代表し、総務省放送コンテンツ海外流通推進室室長村田健太郎氏が次の通り挨拶を行った。
「初のオンライン開催となったTIFFCOMに日本全国の放送局が多数参加している。自然、文化など海外にまだ広く知られていない日本の魅力に強みを持つ地方の放送局も多数参加し、海外との共同制作パートナーを積極的に探している。2014年から日本と海外との間で展開する共同制作プロジェクトがスタートし、その年間支援金額は1,200万ドルに上る。各企画40万ドルを上限とし、その半分の資金を支援し続けてきた。これまで支援したプロジェクトの数は250を数えた。海外パートナーの地域は東南アジアが多いが、国や地域に制限を設けてはいない。共同制作を今後も検討するなかで、バイヤーに知ってもらう機会を求めて、今回、本セミナーの開催を決定した。新たなビジネス展開の機会となることを期待している」。
これまでも国際コンテンツマーケットにおいて、日本政府のサポート体制を強調する場面は作られてきた。昨年3月に香港で行われた「香港フィルマート」や同12月にシンガポールで行われた「ATF(アジア・TV・フォーラム&マーケット)」での総務省の支援の模様を弊誌で伝えている。今回のTIFFCOMでは国際共同制作プロジェクトに焦点を絞り、成功事例を海外バイヤーにPRする機会が作られたというわけだ。
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■年間数億円規模の支援、6年で番組事例は250件
なお、放送コンテンツの海外展開の海外輸出額は増加傾向にあり、総務省が発表した「放送コンテンツの海外展開に関する現状分析」の最新版によると、2018年度は輸出額全体で519.4億円に上る。昨今の動画配信プラットフォーム勢の急成長に影響されるかたちで、日本の放送コンテンツ海外展開においてもインターネット配信権の売上が急速に伸びている状況にある。また活発なコンテンツ国際市場を背景に、共同制作そのものも各国でトレンドにあり、海外バイヤーやプロデューサーにPRするには好機とも言える。
総務省支援の共同制作プロジェクトは2013年度から数億規模で予算化され、村田室長の説明の通り、支援制度を利用した番組事例は250件にも上る。相手先は主に日本に観光客を取り込め、かつ経済発展を続けるASEAN10か国のうちミャンマー、タイ、ベトナム、フィリピン、マレーシア、インドネシアの6か国が中心にある。テレビ局や大手総合商社などが中心となって立ち上げられた組織団体「BEAJ(放送コンテンツ海外展開促進機構)」がこの取り組みを事業として取りまとめている。
セミナーはBEAJ事務局長の君嶋由紀子氏がホスト役を務め、日本および世界の共同制作事情に精通するBEAJシニア・アドバイザーのマチュー・ベジョー氏がモデレーター役を務めた。4つのケーススタディを解説していくにあたり、ベジョー氏は総務省支援の共同制作プロジェクトが市場で求められる理由について語っていた。
「コンテンツ制作分野において、日本は国際共同制作の相手として頭に浮かぶ最初の国ではないかもしれない。なぜかというと、国際共同制作の協定や日本で撮影する場合の税制上の優遇措置、公的資金などがないからだ。しかしながら、総務省が共同制作を支援するかたちはとてもユニークだ。日本に焦点を当てた旅番組をはじめとしたエンターテインメントショーを通じて、日本の景色、歴史、食、技術、遺産、大衆文化などを世界に向けて数多く発信している。そして世界にはそのいずれかに興味を持つ多くの日本ファンがいる。日本を深く知るために実際に訪問する旅行者も増えている。また厳しいコロナ禍でもしばし現実逃避できるという視聴者の目線からも、旅番組は非常に需要がある。こうしたなか、日本の放送局と国際パートナーはどのように共同制作を取組んでいるのか、紹介していく」。
海外のバイヤーやプロデューサーに訴えかけられたこのメッセージの後、山形放送、TSKさんいん中央テレビ、関西テレビ、RKB毎日放送が登壇し、成功事例が語られた。その内容については後編に続く。