写真左からTVISION INSIGHTS社 曽我 克洋氏、 森 勇樹氏

16 SEP

テレビCMの“ウェアアウトタイミング”分析とは〜 TVISION INSIGHTSウェビナー

編集部 2020/9/16 09:00

テレビ番組の視聴データ分析を手掛けるTVISION INSIGHTS株式会社は2020年8月25日(火)、テレビ広告の運用担当者を対象に「ウェアアウト(CMの飽きられ)分析」をテーマとしたウェブセミナーを開催した。

同社では、テレビ上部に設置したセンサーにより視聴者の顔を認識し テレビ番組への「滞在度(VI)」と「注視度(AI)」を計測し、これまでの世帯・個人視聴率からさらに踏み込んだ「番組への注視度」を軸とした視聴データの分析データを提供している。

今回は、テレビCMの投下量とこれに対する視聴者の認知度・関心度との相関関係を掘り下げて調査。認知度が一定基準に到達し、視聴者にとってCMの存在がどのタイミングで「飽きられる」のかを分析した検証結果を紹介した。

パネリストは、同社データサイエンティストの曽我 克洋氏。モデレーターを同社の森 勇樹氏が務めた。

■テレビに付けたセンサーで「テレビ画面への注視」をトラッキング

まず最初に、今回の分析に使用した同社のデータ取得の仕組みについて紹介。テレビ番組への注目度を示す「視聴質」を把握するための具体的な計測方法について、森氏が説明。

森氏:同社はテレビへのアテンションを計測している。計測モニターに協力する家庭にあるテレビに人体認識センサーを組み込んだ独自の調査機器を併設し、「誰がテレビを注視しているのか」「誰が画面を見ているのか」という情報を取得している。画像そのものは取得せず、人体認識結果のデータのみを蓄積している。

TVISIONの計測 概要

森氏:これまでは、テレビがただ単に「つけっぱなし」で誰も見ていないような状態と、実際に人がテレビの画面に注目している状態とを区別することが難しかったが、同社では人体認識技術によって「テレビの前に誰がいるか」、そして「誰がテレビを見ているか」を細かく判別することができる。誰も画面を見ていない状態は「テレビの前にいるだけ」と判定し、視聴状態のなかでも「滞在」と「注視」を厳密に区別している。

カメラ画像解析でテレビへの「滞在」と「注視」をトラッキング

■テレビ画面への「滞在度」「注視度」を軸に、CMへの注目状況を把握

続いて、視聴データの収集範囲を森氏が説明する。

森氏:同社による計測の対象となっているのは、関東1都6県の800世帯と、大阪府の100世帯。当該地域の地上波テレビ局6局7チャンネル分の全番組、全CMにおける視聴データを毎秒単位で収集している。CMの本数に換算すると、およそ6万本。枠に換算すると、300万回投下分のデータを保持している。

「TVISION」のデータ収集範囲

これらのデータを同社では「VI(滞在度)値」「AI(注視度)値」という2つの軸で分析。実際にどのくらいテレビ画面が注目されていたかを測定する、と森氏。

森氏:「VI値」はテレビの前にどれくらいいたか、具体的には1GRPあたり、テレビの前にどれくらい人がいたかを示す。「AI値」は、テレビの前にいる人がどれくらいテレビ画面に注目していたかを示す。「VI値」と「AI値」を掛け算すると、1GRPあたりどれくらいテレビ画面を見ているかを表す指標になり、数字が大きいほど注視されていることがわかる。

「VI(滞在度)値」「AI(注視度)値」の説明
VI値からは1GRPあたりの「滞在度」がわかる

■テレビ画面への注視度を示す「AI値」でCM効果を計測

今回は、この「AI(注視度)値」を活用。この値は、「テレビ画面の前におり、かつ実際にテレビ画面を注視していた」度合いを示すものだ。対象となるCMの放映時間においてこの値の推移を見ることで、CMの「ウェアアウト」タイミング(飽きられる)を分析する。

曽我氏:「ウェアアウト」は英単語で「Wear-out(=摩耗、飽き)」。同じものを何度も見ることで認知効果がさがることを指す。今回は、CM出稿量が増えることでCM効果(認知効率)が下がることを意味する言葉として定義する。

「ウェアアウト」の定義

言葉のうえでは一見ネガティブな印象を感じる「ウェアアウト」だが、ポジティブな効果を捉える意味でも使えると曽我氏は語る。

曽我氏:飽きること=認知が十分に広がったと捉えることもできる。今回はCMがどの時点で十分な認知を獲得し、見られなくなっていくのかを分析する。

■ACジャパンの2つのCMを対象に「ウェアアウト」を計測

今回サンプルとして取り上げたのは、ACジャパン(公共広告機構)による非営利の公共広告。

2016年、東京オリンピック開催決定にあわせて放映された『ライバルは、1964。「あの頃の日本人に負けるな」編』と、2019年より放映されている『ジャパンハート「日本の心」編』の2つについて、累積GRP(のべ視聴率)ごとのAI値の推移を比較した。

曽我氏:普段広告主のみなさまとやりとりするなかで、クリエイティブの切り替えの目安として1,000GRP前後が意識されているという話を聞く。今回は「1,000GRPを越えたあたりから注視度が大きく分かれる」という仮説を立て、GRPやフリークエンシー(CMへの接触度)が増大した時、AI値がどう動くかを見た。

今回の分析概要
今回の分析に用いたデータの概要

曽我氏:もっとも、CMには想定するターゲット層があり、視聴者の属性に応じてAI(注視度)の値もさまざまに変わる。今回は全体的な推移の傾向を見るため、250GRP時点・FQ1(1回目の接触)時点をそれぞれ100%とした割合で表現した。

■ウェアアウトの始まりは「200〜250GRP」。1,200GRP〜認知が跳ね上がる場合も

前述の2つの公共広告テレビCMを分析した結果、GRPとCMの注視度にはどのような相関関係が見られたのか。曽我氏が解説する。

AI(注視度)値の推移から「飽きられ(ウェアアウト)」を測定する

曽我氏:出稿を続けていった場合、まず250〜500GRPにかけて注視度に大きな変化が現れだすことがわかった。今回のサンプルである2つの公共広告テレビCMでは、いずれも250〜500GRPの時点で注視度が下がっていることがわかる。

こうした注視度の低下ポイントを「ウェアアウト」と定義した曽我氏。こうした認知度到達の境目を見ることは、クリエイティブ変更のタイミングなどを計ることにも活用できるという。曽我氏は続ける。

曽我氏:1,000GRPの段階でもっとも摩耗が多い属性はChild(4〜12歳)層。1,000GRPまでのあいだに注視度が8%落ち、その後も低く推移した。若年層ほどウェアアウト(飽きられ)率が高い。

テレビCMは出稿するほど飽きられてしまうのか─。しかし曽我     氏の説明によれば、ネガティブな側面だけではないようだ。

曽我氏:『ジャパンハート「日本の心」編』については、600〜800GRPからAI値が上がり続けた。『ライバルは、1964。「あの頃の日本人に負けるな」編』に関しても、個人全体では1,000GRPがひとつの境目となっているが、属性別データで見るとF1(女性20〜34歳)層で1,200GRPを超えた時点からAI値が跳ね上がっていることがわかる。

「あの頃の日本人に負けるな」編、F1層は1,200GRPで注視度が急上昇

■若年層より高年齢層、男性より女性が「CMに『ウェアアウトしにくい』」

続いて曽我氏は、フリークエンシー(接触回数)に基づいた各属性別のAI(注視度)値の推移を解説。

曽我氏:全体的には、3〜5回目の接触から、AI値がゆるやかに下る。若年層ほど、接触が増えるほどAI値が摩耗していくが、一方でF2(35〜49歳女性)・F3(50歳以上女性)の摩耗は同じ年代の男性とくらべて摩耗が緩やかだ。「見たことあるものは見ない」「すでにわかているものは見ない」という傾向が男性に多いのに対し、女性はこうした繰り返しの接触にもポジティブな反応を示しやすいとも言えそうだ。

属性別、フリークエンシー(接触回数)別のAI値推移

今回の発表をまとめ、曽我氏は「200〜500GRPでのウェアアウト率が高い」「全体的に接触率を重ねるほどウェアアウト率が高い」「属性別では若年層ほどウェアアウト率が高く、高年層ほど低い」と結論付けた。

調査結果のまとめ

今回の調査においては「1秒でもCMに対して滞在した場合」を対象にしたと曽我氏。集計の基準となる滞在秒数や注視秒数のしきい値は同社のBIツール上で自由に変えることができるという。CM効果の測定という課題に対し、個々のニーズにあわせたミクロな分析ツールとしての「活用」に今後も注目したい。

TVISION INSIGHTS株式会社