テレビ宮崎制作部所属の阿部祐也氏と報道部所属の水主義人氏
全国展開も見据えるドラマ『ひまわりっ』制作の裏側~テレビ宮崎ドラマチーム現地インタビュー~(後編)
編集部 2020/4/29 08:45
テレビ宮崎が初のドラマ制作に挑戦する。宮崎出身の漫画家、東村アキコの連載漫画を原作に『ひまわりっ~宮崎レジェンド~』のタイトルで連続ドラマ化、6月1日にスタート(毎週月曜〜金、18:45〜UMKスーパーニュース内)する。このドラマ企画は「NEXT50」を掲げる開局50周年プロジェクトの取組みの中から生まれたものだ。新たな試みも計画され、攻めに入ったテレビ宮崎の狙いとは何か? 宮崎市内にある本社現地で寺村明之社長はじめ、プロジェクトメンバーらを直撃した。そのインタビュー内容を前・中・後編にわたってお伝えする。後編は開局50周年プロジェクトの目玉である『ひまわりっ』の制作、広報、権利処理担当者にこれまでの取組み内容を聞いた。(本文以下、敬称略)
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■ローカル局も全国、海外で売れるコンテンツを持つべき
前編の寺村社長インタビューで明かされた通り、ドラマ『ひまわりっ~宮崎レジェンド~』はローカル発全国発信の展開も計画されている。ローカルコンテンツに注目が集まっていることも追い風に、制作者たちはどのような思いで初のドラマ作りに取り組んでいるのか。テレビ宮崎制作部所属の阿部祐也氏と報道部所属の水主義人氏の二人のプロデューサーにまずは率直な思いを訪ねた。
水主氏: 宮崎の人に感謝を伝えるために、宮崎を題材にしたドラマを作り上げています。誰もが笑って楽しめ、“てげてげ”ないい加減さもありつつ、愛情深く気さくで人懐っこいキャラクターが登場するドラマを全国に発信して、宮崎の良さをこのドラマを通じて感じてもらえればうれしいです。“陸の孤島”と言われる宮崎に「行ってみたいね」という気持ちが生まれたり、全国に散らばっている宮崎出身者に「戻ってみよう」という思いにも繋がっていければ、成功のひとつだと思っています。
阿部氏: 本当にその通りだと思います。ドラマの体制は宮崎県出身のホリプロ平部隆明さんがキャスティングをはじめ統括の立場で進め、我々局Pと共有しながら進めています。とは言え、私と水主はドラマ作り未経験。報道記者の水主と制作ディレクターの私という畑が違う二人が開局50年周年事業をきっかけにタッグを組んでドラマ作りに挑戦しようと、頑張ってやっています。思ったよりもすべての過程において大変だと感じる日々ですが、走り続けています。
ドラマ『ひまわりっ~宮崎レジェンド~』は15分尺、全10話で構成される。周年記念ドラマと言えば単発ものが多いなか、敢えて短尺連続ドラマが企画された理由がある。
阿部氏: HTBの『チャンネルはそのまま!』のような1時間の放送枠で5話ぐらいの連続ドラマが理想的ですが、予算的な問題もあり、長尺で作るとなると1本程度しか作ることができない事情がまずありました。ただし、2時間程度のドラマを企画するとなると、1回見て終わってしまう。それでは寂しいという欲張りな思いと共に、朝ドラを意識して、15分ぐらいのドラマであれば見せやすい。最初の段階から短尺の連続ドラマ構想は出来上がっていました。コメディという観点からも短尺は向いています。何度も繰り返して見てもらえるかもしれません。今日見て「楽しい」と思ったら、明日も楽しめる。そんなドラマを目指しています。
水主氏:動画配信でも新たな収益を狙っていくことも理由のひとつにあります。国内だけでなく、海外でももしかしたら売れるかもしれないと、そんな狙いもあります。単発よりも連続ドラマは視聴の機会を増やす効果もあると思っています。短尺ドラマはスマホでも見やすい。地上波が下火になっていくなか、全国、海外に売れるコンテンツを持つべきという考えも根底にあります。ローカル局も積極的に動いていかなければならない時代です。
■斜陽産業にしてしまうかどうかは、20代、30代世代の気づき次第
配信を含めた全国展開が当初から計画され、権利ビジネスと言われるドラマ作りを遂行していくためには法務面のノウハウ蓄積も求められる。ドラマ『ひまわりっ』制作を機に法務担当が設けられ、入社4年目の新規事業開発部所属の壹岐明莉氏が抜擢された。
壹岐氏:ドラマ企画が決まったと同時に契約を結ぶ作業が発生していきました。大学で法学を学んだわけでもなかったのですが、実はドラマ作りがしたくて入社したテレビ局で何かしら関わりたいと思い、社内で声をかけてもらって権利処理をやらせてもらうことになりました。ノウハウのある系列局から学ばせてもらいながら、ありとあらゆる著作権本も読み漁り、通常業務と兼任しながら担当しています。
権利の仕組みを理解することによって、放送コンテンツの展開の広がりが具体化する。そんななか、新たな気づきも生まれているようだ。
壹岐氏:二次展開で売り出していくことのできるコンテンツはドラマ以外にもまだまだ自社制作の番組にあります。ネット展開にもシフトしやすい。ローカル局なので県民の皆さんに楽しんでもらえるものが大前提にありますが、全国にも展開できる“田舎ビジネス”もあるのではないかと思っているところです。地元では当たり前のことでも、外から見ると面白い企画はあるはずと、アンテナを立てながら、いざ出そうとなった時に足かせになるものがないように備えていきたいと思います。テレビ局は今、斜陽産業と言われていますが、私はぜんぜんそう思っていません。テレビの影響力はまだまだ大きい。本当に斜陽産業にしてしまうかどうかは、20代、30代世代の気付き次第です。私自身も気付く力を持てるように励んでいきます。
作り上げるコンテンツをできるだけ広く視聴者に届けていくためにカギとなるのは広報の仕事である。全国に向けたドラマPRのノウハウもイチから築き上げている。担当する編成業務部の甲斐穂香氏にも話を聞いた。
甲斐氏:当初はローカル局のドラマだから、東京の各新聞・雑誌社に話を投げても書いてもらえないだろうと当たり前に思っていたところがありました。意識が変わったのはリリースに関する勉強会で「東京もローカルも面白いと思ったら書いてもらえる時代。自信を持ってください」と助言をいただき、そうかもしれない!と積極的に出していきました。2月に東京でも記者会見を行い、東京では18社、宮崎では13社の方に出席してもらいました。
主演の平祐奈をはじめ、高橋克典、浅香唯らキャスト陣の発表記事をはじめ、「東村アキコ原作によるテレビ宮崎初挑戦ドラマ」という紹介で実際に広い媒体での記事化が成功している。またSNSを利用した情報発信も続け、放送、配信に向けて戦略的に盛り上げているところである。
甲斐氏: 盛り上げ方についてはまだまだ手探りですが、ドラマ広報一年生という立場をフル活用し、系列局の広報担当者やキャストのマネージャーさんに相談させてもらいながら投稿を続けています。主演の平さんが約40万人のフォロワーの方に向けて「『ひまわりっ』の公式フォローも是非!」と自ら投稿してくださることもあります。盛り上がりの山を作れるよう、フォロワーの人数を見ながら、認知度を広げていこうと思っています。多くのドラマは放送の1か月前ぐらいから集中的にPRを行っていくものかと思いますが、テレビ宮崎では今年の1月1日の早い時期から情報解禁しています。テレビ宮崎にとって初めてのドラマ制作になりますから、やるならとことんやりたいと思っています。
初挑戦のドラマ制作事情を中心に、前・中・後編にわたってテレビ宮崎の開局50周年事業について現地で取材し、最も印象に残ったのは中堅、若手社員たちが自発的に考え、実行に移している姿だった。数人集まれば、その場で会議が始まり、アイデアが次から次へと生まれている様子も目の当たりにした。意識改革によってこうした変化が生まれている。現地取材後の現在、新型コロナウィルス感染拡大防止のため、開局50周年事業は当初の計画から変更せざるを得ない状況にもあるが、こうした有事の時こそ地域メディアの役割に真価が問われるのではないか。新たな答えに向かって動き出したその時、再び現地に訪れたいと思う。