株式会社テレビ宮崎 代表取締役社長. 寺村 明之氏

20 APR

危機感が生んだ初挑戦ドラマ、「NEXT50」に込める狙いとは? ~テレビ宮崎寺村明之社長現地インタビュー(前編)~

編集部 2020/4/20 07:00

テレビ宮崎が初のドラマ制作に挑戦する。宮崎出身の漫画家、東村アキコの連載漫画を原作に『ひまわりっ~宮崎レジェンド~』のタイトルで連続ドラマ化、6月1日にスタート(毎週月曜〜金、18:45〜UMKスーパーニュース内)する。このドラマ企画は「NEXT50」を掲げる開局50周年プロジェクトの取組みの中から生まれたものだ。新たな試みも計画され、攻めに入ったテレビ宮崎の狙いとは何か? 宮崎市内にある本社現地で寺村明之社長をはじめ、プロジェクトメンバーらを直撃した。そのインタビュー内容を前・中・後編にわたってお伝えする。前編は開局50周年プロジェクトの旗振り役でもある寺村社長に登場してもらった。(本文以下、敬称略)

■周年記念ドラマを1回放送するだけでは勿体ない

2020年の今年、開局50周年イヤーを開始し、さまざまな新たな挑戦を推進しているテレビ宮崎。自局らしさを求めた自社制作番組は報道、バラエティのジャンルにおいてはこれまでも数多く生み出しているが、ドラマ制作は50年の歴史の中でも初めての試みだ。どのような経緯で立ち上がったのだろうか。

寺村氏:宮崎はUMKとMRTと民放が2局しかなく、地元に貢献しようというのがまず大前提にありました。50周年というと、まさしく半世紀。節目の50周年の時に「地元に感謝することをやりましょう」ということからスタートしました。具体的には50周年の準備室を作り、柔軟にいろいろなことを考え始めました。ドラマの話も現場社員との雑談から。「ドラマが作れたらいいよね」とは私も話しましたが、現実を考えると相当な制作費がかかるものです。私から「作りなさい」と促したものではありませんでしたが、社員から「作りたい」という声が日に日に増していきました。その後、企画書に社員達の思いがまとめられ、社内プレゼンも通過しました。系列局や制作会社の力を借りながら交渉をすすめ、東村アキコ先生からも正式に承諾を得て、具体化していった、そんな経緯になります。

 

HTBの『チャンネルはそのまま!』や東海テレビの『さよならテレビ』など長年にわたる取組みの中から全国で話題になるローカル発番組も増えている。テレビ宮崎の『ひまわりっ~宮崎レジェンド~』もそうした可能性は十分秘めている。全国展開についての考えも聞いた。

寺村氏: ドラマ制作に取り組むことそのものが可能性を広げていく。そんな視点を持って進めたいと思っています。日本国内だけでなく、アジアなど海外にもセールスできるチャンスをどのように掴めることができるのかどうかも手探り中です。まずは1回放送するだけでは勿体ないと思っているところです。配信や県外セールスなどを計画しています。何より連続ドラマで展開する意味を最大限に活かしていきたい。それを具体化させていく過程のなかで、いろいろな方からヒントを頂いています。ドラマをはじめ、50周年をアピールしていると、有難いことに意見を頂くきっかけにも繋がっているのです。外から頂いたひとつひとつのご意見を反映し、少しずつ効果を生み出していることも実感しています。私自身、テレビ宮崎に来たのは4年前。それまで事業に長く携わっていたことから、演劇やイベントを通じて宮崎から新たなコンテンツを生み出し、ブームアップさせることで利益を生み出す構造を目指したいと思います。まずは『ひまわりっ~宮崎レジェンド~』のドラマから取り組んでいきます。

主人公アキコ役の平祐奈、アキコの父親役の高橋克典らを迎えて行われたドラマ『ひまわりっ~宮崎レジェンド~』の撮影風景。UMK本社の社員食堂も使われた。

50周年プロジェクトでは宮崎県民と共に歩むテレビ局を目指し、「あなたと歩むテレビ」といったコンセプトも発表している。キャッチーフレーズは「You & UMK」。さまざまな取り組みが始められているが、どのような想いで進められているのだろうか。

寺村氏: 共通して言えることは地域貢献と企業としての生き残りをどのように考えていくか。南海トラフ地震や風水害等に備えて県内の全26市町村と危機感を共有し、防災協定も視野に入れて、有事に何ができるのかについて取り組みを始めています。広報活動としては毎日、日替わりで365日間にわたって県民の皆さんがCMに出演する「みんなのCM」もあります。また50年の放送ライブラリーから良質なドキュメンタリー番組を再放送する企画も始めています。

■社内の意識改革も裏テーマに、ボトムアップ型で企画提案

全国的にテレビの広告収入が減少傾向をたどり、広告媒体としての価値の低下が課題になっている昨今、放送外収入を含めて放送局が生み出すコンテンツのマネタイズ化を柔軟に考えていくべき時でもある。危機意識についても尋ねた。

寺村氏: 地元経済が今後、活性化していくことが約束できない状況です。宮崎のメディア接触の特長のひとつにスマホの普及率が全国的に低いことが挙げられます。通勤に電車やバスが使われず、車利用が多いことが影響していると考えられています。若者を中心に利用が伸びているアプリゲームもそもそもスマホの普及率が低いことから、テレビCM出稿も少ない。若者の一人暮らし率が低いことも影響していると推測しています。一方、テレビと県民の距離感が近く、東京や大阪よりもテレビが見られています。テレビの媒体価値はまだ大きいと思う一方で、新規事業の開発や放送外収入の確保なども進めていかねばならないと危機感を持っています。とは言え、異業種参入は簡単ではない。現在、テレビ宮崎のグループ会社としてUMKエージェンシーとテレビ宮崎商事、UMKカントリークラブ、宮崎電子機器、システム開発などがあります。こうしたグループ会社を含めて一体感を持って新しい事業にどう取り組み、隙間ビジネスを作り出すことができるのか。コンテンツを作る力もつけて、発信力もつけ、新しいことに踏み出して行かねばならないのです。

「NEXT50」を掲げる50周年プロジェクトは社内の意識改革も裏テーマにある。初のドラマ制作や地域貢献企画、新規事業開拓といったひとつひとつの案件がボトムアップ型で企画されている。その真意とは?

寺村氏: ボトムアップに慣れていなかった社員たちは当初、今回の50周年事業企画に対する反応も薄く、働き方改革もあるので「将来のために何か一緒に考えてくれないか?」といった具合に声をかけていきました。「夢みたいな話であっても、それをかたちにしていくことで自分たちの財産にできる」といった話もしていきました。細かく「あれやれ」「これやれ」は言いませんでしたが、「新しいことに挑戦しよう」だけはしつこく言っています。50周年は次の50年のことを考える良い機会になります。地域のため、子供たちのため、我々テレビ局のために、次の50年を担う今の30、40代の彼ら彼女らがどうやったら生き残っていけるのかを根本的に考えるきっかけを作りたかったのです。今は何かしないと、収入は落ちていくいっぽう。ただし、危機感を煽るだけでなく「ローカル局でもできることはあるよ」と、社員たちに伝えています。

寺村社長の想い通り、実際に社内では自発的な動きが活発化している。その様子は現地取材で強く感じられたことのひとつだ。2月下旬に現地取材した時点で計画されていた50周年事業の一部が全国的に拡大している新型コロナウィルス感染の影響を受け、延期や中止など変更を余儀なくされているが、50周年事業で「NEXT50」に込められた根本的な狙いと今向かうべき方向性に変わりはないだろう。続く中編は若手から中堅の社員で構成される50周年プロジェクトメンバーから聞いたそれぞれの具体的な取組みについてお伝えする。