インフルエンサーは、ひとつのメディア!データ分析による活用が有効
編集部
先回に引き続き、株式会社ビデオリサーチ主催の「How to be Social Media Involved ~インフルエンサー&ソーシャルデータ活用セミナー ~」(日本マーケティング協会<東京都港区六本木>にて8月24日に開催)の様子をレポートする。第二部は、「インフルエンサー&ソーシャルデータを企業がどう活用すべきなのか?」というテーマで進められたパネルディスカッション。
企業側の実例報告を、日本ロレアル株式会社のデジタル戦略統括責任者である長瀬次英氏、株式会社JTB国内旅行企画の商品戦略室マネージャーである横田典之氏が行った。ディスカッションには、ゲストとしてユーチューバーのMEGWIN氏も加わり、第一部の株式会社ビデオリサーチ深田航志氏、スプリンクラージャパン株式会社山中理恵氏、株式会社Bizcast高尾啓人氏も引き続き参加した。
ユーチューバーの起用でコンバージョンもアップ
もともとJTBでは、販促の主流は店頭のパンフレットだったという。そんななかで同社の横田氏は、新たにデジタルを活用することで、どのようにカスタマーに届けられるかを手掛けてきた。横田氏はより情報量の多い動画の活用を検討し、ユーチューバーと企業のマッチングプラットフォーム「BitStar(ビットスター)」を介してMEGWINさんを起用したとのこと。
動画を利用したのは、エースJTBの商品「サンキューチョイス」で提供する2泊3日の東北の旅。もともとリーチが弱かった若者への訴求を狙った。その結果、MEGWINさんを起用した2016年は、PVの昨対比が700%という驚異的な数字を打ち出したという。
2017年は、前年の結果をさらに分析。20代は多かったものの、30代への訴求が弱かったため、再び「BitStar」で30代に人気のユーチューバー・Dekakinさんも起用。MEGWINさんとコラボ動画をアップしたところ、相乗効果で幅広い世代にリーチし、PVは2016年と比較して180%と、さらに伸びたという。
ユーチューバーの起用により、動画の視聴回数だけでなく、オンライン申し込み、グループ申し込みも増加した。インフルエンサーマーケティングが商品購入につながったのが大きかったという。「企業としては、単なるブランディングで終わるだけでは意味がない」と横田氏。その期待の大きさとシビアさを、コメントににじませた。
カスタマージャーニーに応じて、インフルエンサーを活用
日本ロレアル株式会社は、「Sprinklr(スプリンクラー)」を活用してソーシャルメディアで影響力のあるインフルエンサーをピックアップし、コラボレーションしている。同社の長瀬氏は、インフルエンサーをメディアのひとつと認識しているとのこと。ターゲットに近いのは誰か、カスタマージャーニーのどこに配置し、どんな役割をもたせるかという部分まで踏み込み、それを22のブランドごとに設定しているという。
具体的には、商品の認知から購入までのカスタマージャーニーを7ステップに分け、インフルエンサーを介して、目的や効果に応じたコミュニケーションを考えているという。例えば、商品の情報を拡散する最初の段階では、ツイッターでつぶやいてもらう。商品購入の一歩手前では、具体的な使い方や効果を知らせるためにメイク動画をアップしてもらう、といった具合だ。
長瀬氏は、「カスタマージャーニーは、商品によってまったく違う」と指摘。例えば、コスメはわざわざ検索して探さない。欲しいものが決まっていて、ECサイトから直で総合サイトやブランドサイトに流れていく。ソーシャルデータを活用したきめ細かな分析をもとに、最適なメディアタッチポイントを探ることが重要だと語った。
今後は、インフルエンサーに歩み寄る努力が必要
パネルディスカッションでは、インフルエンサーマーケティングの今後についても話が及んだ。JTBの横田氏は、インフルエンサーによる情報拡散という手法はまだ浸透しきっていないため、伸びしろはあると見ている。ただ、インフルエンシーが一方的に商品を見せるなら、アド疲れが出てくるのではと危惧。「デジタルは本来、双方向性が特徴。コミュニティに入り、どうやりとりしていくかがポイントになるのでは」と指摘する。
ロレアルの長瀬氏は、インフルエンサーマーケティングが手法としては確立しているため、今後、オートメーション化されていくと大胆に予測。同社は、すでにその先にある、コミュニティマネジメントに視点を移している。長瀬氏によると、日本はコミュニティやサークルがものすごく多いのだという。しかも、欧米は「同じ趣味の仲間を増やしたい」という志向だが、日本は「知り合い同士で集まりたい」という志向が強い。ソーシャルメディアも、そんな身近な人とつながるツールとして利用されているため、インフルエンサーを介して、コミュニティに入り込んでいくことを、ますます重要視しているという。
「Sprinklr」を提供するスプリンクラージャパン株式会社の山中氏も、企業が生活者のなかに入っていくことが、今後の望ましい関係と考えている。「企業が友だち」という関係性を築き、インフルエンサーと歩み寄れることができればと期待する。
その点については、「BitStar」を提供する株式会社Bizcastの高尾氏も同意見。インフルエンサーとの良好な関係づくりに大きな価値を感じている。「関係を築けたインフルエンサーは、企業と同じ価値観がある。万一企業が危機に直面したときも、擁護してくれる存在になるはず」と企業側のさらなるメリットを語った。
クロスメディアとして、インフルエンサーを捉える
ソーシャルデータの活用で、カスタマージャーニーが詳細に捉えられるようになり、そのなかで、各メディアができること、得意とすることも明確になってきている。インフルエンサーも発掘し、活用できるようになった。
今はまさに、お膳立てが整った状態と言えるだろう。あとは、何を使い、何を伝えるかだ。ロレアルの長瀬氏が語るように、インフルエンサーをひとつのメディアとして捉えると、テレビとの掛け算も、案外シンプルに考えられるかもしれない。