いまや検索より、動画やインスタ!インフルエンサーの影響力
編集部
株式会社ビデオリサーチの主催で、日本マーケティング協会(東京都港区六本木)で「How to be Social Media Involved ~インフルエンサー&ソーシャルデータ活用セミナー ~」が、8月24日に開催された。テーマはソーシャルデータの最新活用事例や、消費者に近いところで情報発信するインフルエンサーを起用したマーケティングについて。第一部では、業界最先端の取り組みを交えながら、株式会社ビデオリサーチの深田航志氏、スプリンクラージャパン株式会社の山中理恵氏、株式会社Bizcastの高尾啓人氏が、それぞれプレゼンテーションした。
ソーシャルデータで、カスタマージャーニーの空白が埋まる
株式会社ビデオリサーチの深田氏は、カスタマージャーニーをより精緻に捉えるため、ソーシャルデータの活用を提案。その事例として、プレゼンでは、ソニーのブラビアを購入した47歳男性のデータが取り上げられた。
なお、データの収集には、同社の提供する「VR CUBIC」が用いられた。「VR CUBIC」は、TVの視聴データ・CMとの接触データのほか、パソコンやスマートデバイス(スマートフォン/タブレット)での情報の接触ログを捉えることができる。さらに、アンケートによってメディア接触者の意識や態度変容の把握も可能だ。TV×デジタル×アンケートにより、行動と意識の両面から、カスタマージャーニーに迫ることが可能となっている。これによって、単一の調査では拾いきれないカスタマージャーニーの空白部分が埋まっていくのだ。
ブラビアを購入した男性の場合、購入後のアンケートによると、情報経路は「購入時に店員に聞いた」とあり、購入場所は「量販店」とのことだった。しかし、TVの視聴ログを見てみると、購入までの1ヶ月強の間に、21回TVでCMに接触していることがわかった。さらに、ネットのログで、「価格.com」で商品の料金比較やGoogle検索で他の液晶テレビとの比較検討も行っていることが明らかになった。「購入時に店員に聞いた」というのは、最後のほんのひと押しに過ぎなかったと考えられる。
株式会社ビデオリサーチの深田氏は、このほかにも、家族・友人・知人などのクチコミによる情報経路があることも指摘する。その経路は、同社のACR/exデータによると、「TVCM」「商品そのもの」に次いで第3位となった。この結果を踏まえて、「第三者(情報発信&インフルエンサー)に対して、ソーシャルメディアを介して上手に情報をシェア(渡して)いくことが、現在のマーケティングでは重要」であることを改めて強調。これらを押さえることで、購買者のカスタマージャーニーをより綿密に補完できることを提案した。
インフルエンサーを発掘し、長期的な関係作りが必要
続く、スプリンクラージャパン株式会社の山中氏のプレゼンでは、ソーシャルメディアに特化したソリューションの重要性について掘り下げられた。かつて情報発信を主導していたのは、ブランドだった。しかし、いまや世界30億人がネットとつながっていると時代だ。特に顕著なのがソーシャルメディア。購買意欲が潜在化するスタートの段階から、情報を入手して購買後にシェアするエンドの局面まで、あらゆるシーンでソーシャルメディアが登場する。個々がいつでも自由に情報発信できるようになったことで、ブランドの発信力は相対的に弱まっているともいえるのだ。
このような時代の変化を背景に、販売戦略も変化するなか、企業がインフルエンサーから〈共感〉と〈理解〉を得られて、情報を発信してもらうことは極めて有効であるといえる。しかし、〈共感〉と〈理解〉を得るためには、従来のようなキャンペーンベースの短期のマーケティングでは効果が期待できない。長期的に良好な関係を築くため、いわゆる「インフルエンサーマーケティング2.0」が求められるという。
その一助として、同社は「Sprinklr」というプラットフォームを提供している。これにより、複数のSNSのマネジメントを一元管理できる。外部システムとの連携で、よりパーソナライズされた体験も提供できるとのことだ。
具体的には、各個人のスコアリングや、発言内容の自動分析、タグやフラグを付けての追跡といった機能があり、実際の発言内容もすぐに調べることができる。これらを一つのディスプレイでまとめて捉えることで、マクロな視点によるブランドの状況がわかる。
また、アクティブリスニングを通じてインフルエンサーを見つけ出し、戦略的に働きかけていくことも可能だ。「マーケットの全体像把握と、インフルエンサーの発掘と関係作りこそ、Sprinklrのミッション」と山中氏は語る。
メディアを“持つ”ユーチューバーは、世の中も動かす
インフルエンサーが情報発信するうえでは、動画配信も大きな要素になっている。それを担っているのが、言わずと知れたユーチューバーである。そのコラボレーションを提案するのが、株式会社Bizcastの高尾氏だ。同社は、発信力のある1,500人以上のユーチューバーと企業とをマッチングさせるプラットフォーム「BitStar」を提供している。
高尾氏によると、15歳~29歳の81%が、ネット動画を週1回以上視聴している。購買行動でも、ユーチューバーを始めとするインフルエンサーの動画やSNSを見て、商品を購買(来店)した人は88%にものぼるという。「いまや女子大生にとって、検索サイトやECサイトでの商品検索はクールではない。インスタなどの写真投稿SNSで欲しい商品を探している」と高尾氏は分析する。
ここでもキーワードとなるのは、〈理解〉と〈共感〉だ。ユーチューバーなどが作る動画は、生活者目線で作られているため、態度変容も促しやすい。現在は、企業から生活者にダイレクトにメッセージを伝えるより、インフルエンサーに翻訳してもらうほうが届きやすいといえるだろう。
また、芸能人とインフルエンサーとの垣根が、ほとんどなくなってきているという。インフルエンサーのなかには、ひとたびムック本を出せば、ECサイトで1位を獲得するような人もいる。企業も、インスタで活躍するインフルエンサーを起用したコスメ用品のプロモーションや、動画配信が盛んだ。実際、エンゲージメントが芸能人よりも多かったという成功事例もある。「ユーチューバーには、さまざまなカテゴリーがある。それをうまく活用できたら」と高尾氏は期待を込めた。
高尾氏によると、いまや「中学生男子の将来の夢」のうち、第3位がユーチューバーとのことだ。女子のランキングでも第10位にランクインするという。アメリカでは、ユーチューバーがニュース専門テレビ局CNNに28億円で買収された事例もある。「メディアは“出る”から“持つ”時代になった。ユーチューバーは、もはや世の中を動かす存在」と高尾氏は語る。
インフルエンサーを軸としたメディアミックスの可能性
発信力と影響力を持つインフルエンサーは、TVCMやTVコンテンツを制作するうえでも、大きな起爆剤となるかもしれない。彼らを軸としたメディアミックスにも可能性を感じる。TV業界としても、インフルエンサーの発掘と起用は、十分に検討する余地があるだろう。
次回は、第二部に行われたパネルディスカッションをレポートする。インフルエンサーやソーシャルデータを活用している企業と人気ユーチューバーが加わり、成功事例や今後のマーケティングについて、突っ込んだトークが繰り広げられた。その模様をお伝えする。