アニメファンの属性をデータ化 ライブ・再生・予約率から見える作品享受を分析
編集部
前編「アニメはもう大人向けビジネス 「2.5次元系」が新たなマーケットに」では、2016の秋アニメを振り返りながら“アニメビジネスの今”や“2.5次元系”などについての話を展開。そして、大人向けにターゲットの標準を合わせるアニメがビジネスとして成功させるためには、そのターゲットをさらに深掘りする必要があり、後編では、その観点から東芝映像ソリューション株式会社の片岡秀夫氏による分析結果を紹介する。
■1話切り、3話切りされてもTwitterで人気復活!?
片岡氏は、2016年秋アニメについて、独自のクラウドサービス「TimeOn Analytics」が収集した関東圏内の番組視聴データから、アニメファンのグループ属性を分析した。片岡氏によると、ライブ視聴、再生視聴、予約率という3つの軸で見ることで、視聴率だけでは炙り出せなかった作品の享受の仕方が見えてくるという。
たとえば、2016年秋期人気だったのは上位2作品『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』(以下、『オルフェンズ』『ジョジョ』)。いずれも予約率は高いが、『オルフェンズ』は、日曜の夕方ということもあり、ライブ視聴が多い。それに対して、『ジョジョ』は深夜の放送だったためライブ視聴は低いものの、再生視聴が高い、という特徴が表れている。
しかし、同じように予約率が高い『亜人』は、再生率が『ジョジョ』と比べて低くなっている。片岡氏は、「『亜人』は、すでに劇場版が公開されている。TV版はストーリーが同じで編集の切り方の違いだけだから、再生率が落ちているのでは?」と分析する。つまり、予約率と再生視聴がともに高い作品ほど、次回を楽しみにしているファンが多い、という姿が見えてくる。
予約率と再生視聴を見てみると、1話切り、3話切りされたが、その後人気を盛り返した作品というのもわかる。博報堂DYメディアパートナーズの森永真弓氏は、「アニメはドラマよりも、ツイッターの影響を受けやすく、一気に人気が出ることが多い」という。
2016年秋期で、もっともそれが顕著だったのが『ユーリ!!! on ICE』(以下、『ユーリ』)だ。深夜に放送された翌朝、ツイッターのトレンドトップ10のうち、7つが『ユーリ』で埋まったままのこともあったという。「そんなときは、“絶対何かあった!”と思って、夜に録画を観るのを心待ちにする日も」と森永氏は語る。株式会社サンテレビジョンで編成を担当する那須惠太朗氏によると、もともと『ユーリ』は、関西での放送はなかったという。しかし、あまりの人気沸騰ぶりに、「関西でも放送したい!」と製作委員会から声がかかり、調整の上6週間遅れで放送をスタートしたとのこと。まさにツイッターの動向が、同作の命運を大きく変えたと言えるだろう。
■アニメファンを、視聴データからグループ分け
片岡氏は、さらにファンの属性に迫るべく、今回新たに試みた分析の結果も披露した。ある作品を観ていた人が、上位20位の中で、ほかにどんなアニメを観ていたのかを集計。作品ごとに、ファンが好む作品の傾向を探ったという。
その中から、片岡氏が特徴的なグループをピックアップして紹介してくれた。まずは、『舟を編む』。この作品を観ているファンが、よく観ているのは『亜人』『ハイキュー!!!』『夏目友人帳 伍』だった。作品ごと、設定はさまざまだが、現実世界がベースの人間ドラマを描いている。そういう作品を好むファン層のため、まったくの架空世界である『オルフェンズ』『ジョジョ』のスコアは、平均より低くなっていた。「『ユーリ』も『舟を編む』と同じ傾向にある。魅力的な人間ドラマに、フィクションが乗る作品が好きな人たちのグループだとわかる」と片岡氏。
吸血鬼などが出てくるエグい絵柄の『ドリフターズ』の場合、『ジョジョ』『Occultic;Nine』『終末のイゼッタ』などのスコアが高くなっていた。「架空世界でハードボイルドに戦う作品を好まれる傾向が強く、リアル社会から遠いものを求める集合になっていることがわかる。
オタ・萌えよりの『ガーリッシュ ナンバー』になると、上位スコアにあがってくるのは、『亜人』『舟を編む』『WWW.WORKING!!』だ。「人間ドラマに、ラブコメ的なあり得ない設定のトッピングが加えられ、萌えの構造をつくる……このような作品が好まれている」と片岡氏は分析する。これによって、一見、純粋な人間ドラマの『3月のライオン』『ハイキュー!!!』といった作品や、ハードコアな架空世界モノは、スコアが下がっている。
森永氏はデータを見て、『舟を編む』『ユーリ』ファンは、じっくり見られる人間ドラマを好むタイプ。『ドリフターズ』ファンは、展開が激しくドキドキしながら観られるドラマを好むタイプ。『ガーリッシュ ナンバー』ファンは、日常の疲れを癒やすひとときとして、バラエティ番組のようにゆるーく楽しめる作品を好んでいるタイプと分析。ジャンルとしては「アニメ」とひとくくりされるが、アニメの中にも作品タイプがあり、物語の好みに応じて多彩な楽しみ方ができる証拠ですねと再確認していた。
■3人がイチオシする、2017年春アニメは?
アニメに造詣の深い3人が、2017春4月期の気になるアニメについてトーク。片岡氏と森永氏が推すのは、『正解するカド』。片岡氏は、自分の中身の7割が、ハヤカワ文庫と語り、「宇宙になぞの直方体が現れて、イケメン宇宙人と日本の外交官がファーストコンタクトする。この内容は、私にとってド真ん中。“待っていました!”という感じです」と、熱い声援を送っている。5分間という長編CMも決め手の要因。最初に役者のインタビューがあって、実写映画の予告かと思わせて、アニメにすっと繋がる構成にインパクトがあったという。
森永氏は、脚本を手がけるのが、注目しているSF小説家・野崎(※つくりは「立」に「可」)まど氏であることがポイントだった。情報化社会が行き過ぎた先、処理能力が追いつかなくなった先の近未来を舞台に描いた小説『Know』など、現在のリアルと地続きな感じがリアリティあふれるSF作品が秀逸とのこと。「その作家が描く脚本なのでおもしろいに違いない」と期待する。
那須氏は、自分自身を「プラモデル属性」と前置きし、『フレームアームズ・ガール』を挙げている。これは、株式会社壽屋というプラモデルメーカーが100%出資して製作されるアニメ。実は、すでにプラモデルとしては、50万個を販売。その製品用CADCAMデータを、アニメ作画用3DCGデータにそのまま転用している点が新しいという。というのも、これまでは”アニメのデータをプラモデルに”という流れはあったが、その逆は初めての試みだからだ。このマーチャンダイジングからアニメという流れを、那須氏は応援したいという。その話を受け、森永氏も、「模型やアニメ作品に使った3DCGデータをさらにVR、ARなどに転用するなどサブコンテンツもつくりやすいというメリットもあるでは?」と新しい潮流の可能性を示唆した。
濃密な内容で、予定の時間をオーバーするほどの熱量で開催された今回のイベント。アニメ市場のニーズ、今後の展開などが垣間見え、TVコンテンツとしても、アニメのプライオリティはますます高まりそうだ。
尚、次回(5月12日)の「シェイク!Vol.10」は、「ヤヴァイ企画の話」がテーマ。平岡大典氏(NHK 広報局・戦略開発担当チーフプロデューサー)、草彅洋平氏(東京ピストル代表取締役社長)、吉田尚記氏(株式会社ニッポン放送 ビジネス開発センター ネクストビジネス戦略部 副部長(吉田ルーム長) アナウンサー)が出演する。