アニメはもう大人向けビジネス 「2.5次元系」が新たなマーケットに
編集部
業界関係者が集うトークセッション「シェイク!Vol.8」を、株式会社IPGが中央区築地にある本社にて3月31日に開催。昨年の9月に行われて好評だったアニメに関するトークセッションの第2弾「面白いアニメとは何か考える2nd」で、出演者は第1弾に引き続き、株式会社サンテレビジョンの那須惠太朗氏、東芝映像ソリューション株式会社の片岡秀夫氏、博報堂DYメディアパートナーズの森永真弓氏。
■業界人が面白かった、2016年度のアニメは?
トークセッションでは、ブレイクトークとして、3人が2016年後半に見た劇場作品について語られた。3人が共通して印象に残った作品は、ライトノベル原作でTVシリーズでも好評を博して映画化された『劇場版 ソードアート・オンライン ―オーディナル・スケール―』(以下、SAO)。VR、ARが浸透した世界で繰り広げられる戦闘ゲームに、実は社会的な陰謀が隠されていた、というSF作品だ。
片岡氏は、初見でもわかる脚本のわかりやすさとアクションシーンの圧倒的な表現を絶賛。また、TVシリーズで無敵レベルとなった主人公を、ゼロのポジションに作為なく落とすことで、再びレベルがあがって敵を倒すカタルシスを描く構成の上手さを評価。那須氏は、次回作への伏線の張り方も「ビジネスとしてとっても上手」と述べ、森永氏も、モチーフとなっているVR、ARの世界が興味深く描かれていることから「VR、ARに注目しているクリエイターは絶対見たほうがいい」と語っていた。
冒頭から、熱い話題でスタートした「シェイク!」。いよいよ、今回の本題に入っていく。
■2016秋アニメから探る、アニメビジネスの今
アニメビジネスの今を知るため、現在、深夜アニメ、いわゆる大人向けアニメと呼ばれるものがどのように享受されているのか、番組編成の視点から、サンテレビで扱う新旧アニメ番組の編成を担当している那須氏が解説した。
まず関西の場合、独立局(サンテレビなど)を中心に23時台半ばから25時台にかけて深夜アニメを放映しており、26時台以降は系列局(毎日放送、朝日放送、関西テレビ、読売テレビ、テレビ大阪)が数作編成している。その一方、関東は関西よりも1時間早い22時台から独立局(MXなど)でアニメの放送がスタート。終わりも24時台と関西と比較して早くなっているが、アニメの編成枠自体は関東のほうが多く、関西は関東に比べ85%にとどまっている。
「これは、関西は阪神戦の中継やよしもと系バラエティなどローカル番組が盛んなため」と那須氏は話しているが、深夜の時間帯にアニメに大きな力を入れているのは間違いないようだ。
■大人向けアニメ、ついにキッズ向けアニメを逆転
深夜にたくさんのアニメの編成枠が設けられるということは、大人向けのアニメが増えていることを意味する。日本動画協会の「アニメ産業レポート2016(サマリー版)」によると、そもそものタイトル数が過去最高の341(うち新作が233、継続放送作品が108)。ひとつのピークだった2006年の記録を、2年連続で更新しており、しかも増加傾向にあるという。さらに2015年は、キッズ・ファミリーアニメと深夜アニメのタイトル、制作分数がついに逆転。「もはや、アニメは大人向けビジネス。二次使用もできるので、商売になる」と那須氏は語っている。
二次使用の代表格であるコンテンツ販売の特徴としては、パッケージが減り、配信が増えていることが挙げられる。特に海外のプラットフォーマーに向けて増えている点も見逃せない。国内では配信が1話につき数百万円が相場だが、海外では1話3500万円で売れたという実績も。アニメ1シリーズ(およそ12話)の製作委員会総予算が1億6000万~2億円と言われる中、海外に1シリーズ売れれば完全にペイできる計算になる。森永氏も「これは業界に激震を起こす出来事だった」と衝撃の大きさを補足した。
■「2.5次元系」が新たなマーケットとして確立
森永氏によると、いわゆる「オタクコンテンツ」と称されるフィールドで、特に成長著しいのは「2.5次元系」と呼ばれるカテゴリーだという。これはまだ曖昧な概念ではあるが、簡単に説明すると、アニメやマンガの原作世界を、リアルの役者さんが舞台で演じるコンテンツのことを指す。リアルの役者さんイコール3次元で、原作は2次元なので、その中間の存在という意味合いで2.5次元と呼ばれている。2010年までは、2.5次元市場全体の売上も上がり下がりがあり、安定しない市場だった。上がり下がりの要因は、宝塚の演目に『ベルサイユのばら』を始めとするマンガやアニメ原作の舞台演目があるかないかであり、宝塚の動向一つで市場が変動するほどの規模だったといえる。当初はまだまだ市場としては未成熟だったものが、2010年以降は、それまで長らく人気を博していた『ミュージカル テニスの王子様』や、舞台『弱虫ペダル』が2.5次元系のフィールドを牽引。それにともなって演目も増加していった。「確実に、市場は変化している」と森永氏は語る。
アニメをリアルな役者が演じるという点では、実写映像作品もある。映像作品は「世界観が壊れた」などとファンに批判されることも多い中、なぜ2.5次元系舞台は熱く受け入れられているのか。それは漫画とアニメという二次元作品特有の現象だと、森永氏は分析する。「マンガのコマは、映像のカット割りようなもの。映像作品であるアニメはもちろん、マンガも映像作品に感覚的には近い。だから、実写映像の中でどれだけ忠実に再現されているか、チェックしやすいんです。そうすると、ファンはどうしても減点方式の採点気分で見てしまう。そこもダメ、ここもダメ、とやっているうちにダメなところばかり目について、批判のボリュームが膨らみやすい」と森永氏。
一方、完全に再現されないことを承知の上で観ているのが舞台である。たとえば、『弱虫ペダル』の自転車で競技するシーンは、ハンドルだけもった俳優たちが演じている。「不完全な部分を、観客が脳内イメージ補完しながら観てくれるうえに、その頑張っている様子を応援したくなる心境にまで至るので、ネガティブな評判が膨らみにくい」と、成長の要因を森永氏は解説する。
大人向けビジネスとして、大きな可能性と裾野を広げる日本のアニメ作品。シェイク後半では、ビジネスの対象となるファンの姿に迫っていく。