Amazonは敵か味方か? FODとAbemaTVが見据える未来の“テレビとネット”
編集部
前編「FODとAbemaTV、次に目指すのは“ファーストウィンドウ”の確保」ではFOD、AbemaTVの現状からネット配信を視聴するユーザ層の調査結果や、両局の2017年度の課題や展望について語られた内容を紹介したが、後編では彼らのトークセッションから、今後“テレビとネット”はどう歩み寄りを見せていけるのだろうかを考察する。
■AbemaTV戦略変更の理由が明らかに
イベント中盤、進行役を務める角川アスキー総研取締役主席研究員の遠藤諭氏からAbemaTV編成制作局長の藤井琢倫氏にこんな質問が投げかけられた。
遠藤氏「AbemaTVスタート当時はテレビがそのままスマホに引っ越してきたという気がしていましたが、現状はネットの世界がテレビ化しているような状況に思えます。いつから現在のコア層にスポットを当てた運用に変わってきたのでしょうか? 当初からその予定だったのか、それとも本音としては、テレビを作りたかったのでしょうか?」
これに対し藤井氏は「正直なところ、当初は他局さんのコンテンツを仕入れられると思っていました。今はテレビ朝日さん、テレビ東京さんの番組をいただいていますが、蓋を開けてみたらコアなジャンルの番組も人気だったので、そこを基盤に利用者を拡大して、マスメディアを目指していきたいと考えています」と回答。
とはいえテレビ朝日とサイバーエージェント、つまりテレビ×Webという異なる世界で強力なタッグを組んだ同局では、スマートテレビでアプリを出すなど、他局ではサービス展開なされていなかった部分で一歩先を行く形となっている。こうした施策は、まさに前編でフジテレビでFOD(フジテレビオンデマンド)の事業執行責任者を務める野村和生氏が語った「ファーストスクリーンの確保」と言えるのではないだろうか。ただそうなると一点気になるのが、もしAbemaTVがファーストスクリーンを持っていってしまったら、テレビ朝日はそのことを素直に喜べるのだろうか……。そんな疑念を抱く声が、会場からも上がっていた。
■テレビとネットの共存には、サイマル放送が必要?
他にもAbemaTVでは、これまで3度行われたテレビ朝日とのサイマル放送について、ネット配信をテレビ放送の補完として積極的に活用しているといった報告がなされた。そこで今度は藤井氏から、「フジテレビではFODでサイマル放送を行う予定はありますか?」という質問を野村氏に投げかける場面があった。
それに対し野村氏は、サイマル放送については社内でも議論がなされていると回答。テレビの世界では視聴率が目安となるが、サイマル放送の視聴数をリアルタイム視聴率に単純に足し上げられないこと、CM枠の問題やアクセスが集中した時のサーバーの強化など、サイマル放送における課題が明らかになり、現状はまだまだ難しいのかもしれないが、品質が保証されれば実現もありうるかもしれないとの見解だった。
さて、ここまでの話では、両局概ね似たような方向性にも感じられたが、イベントも終盤にさしかかる頃、両局の目指す方向性の違いがはっきりした。
■Amazonの事業戦略に対する両局の意見の相違
イベントも終盤に入り、3者の話題はAmazonへと移行。Amazonの薄利多売ともいえる事業戦略や物流の仕組みをも変えてしまうような脅威の手法、何よりもAmazonプライム・ビデオのサービス展開においては目を見張るものがあった。遠藤氏から、これからも大胆かつ巧妙な荒業が出てくるかと思うが、それに対し両局はどう思うのかといった問いが投げかけられた。
すると野村氏は、Amazonは脅威ではあるが、我々にはコンテンツを預かる者としてのプライドがあると発言した上で、FODではオリジナルコンテンツをしっかり作り、ユーザを囲い、自分たちでコンテンツを守っていきたいと回答。特に配信の世界では、FODとして独立国であり続けたいと力強く続けた。一方の藤井は、Amazonもそうだが、NetflixやHuluも全くライバルとは思ってはいないと主張。宣伝のためでもいいから、できるならAbemaTVにチャンネルを作ってもらいたいと切望した。
自分たちのコンテンツを守り価値を高めようとするFODと、コンテンツの共有を望むAbemaTV。ここにきて両局、意見が真っ向から対立する形となったわけだが、どちらも生き残りをかけた攻めの姿勢であることは間違いない。
■テレビとネットの未来の行方
トークセッションは盛り上がり、最後は駆け足で終了する形になってしまったが、今回イベントを拝聴し、両局がデータの取得はもちろん、新たな取組みにも積極的に挑戦し、コンテンツの充実に特に力を入れていることがよくわかった。テレビ放送とネット配信、それぞれ特徴があり、優れた点もあればまだまだ課題となる部分が多いのが現状だからこそ、双方が今できること、やるべきことに尽力し、競合することでユーザが求める新たなサービス展開が生まれるのではなかろうか。
尚、次回(3月31日)の「シェイク!Vol.8」は、「面白いアニメとは何か考える 2nd」。Vol.4でも取り上げられたテーマで、那須惠太朗氏(サンテレビ)、片岡秀夫氏(東芝映像ソリューション)、森永真弓氏(博報堂DYメディアパートナーズ)が出演する。