「キャッチアップ配信」最大の目的は何か?見えてきた課題と展望
編集部
サービス開始1年を経て、リアルタイム視聴への影響も徐々に分かってきたキャッチアップ配信「TVer」。今回はキャッチアップ配信の未来について、TBSテレビメディア戦略室長・龍宝正峰氏に伺った。現在キャッチアップ配信が抱えている課題や、TVerが目標としているサービス展開に見ていこう。
■キャッチアップ配信で広告の幅が広がる
キャッチアップ配信における現状の課題の一つに、広告への対応が挙げられる。
「イギリスの配信では、一つのCMチャンスが2~3分でも問題ないそうです。テレビよりも長いCM時間でもユーザーはついてきてくれるということです。とはいえ、日本のユーザーがスマートデバイスで視聴することを考えると、CMにポジティブな感情で接触してくれる許容量がどれくらいなのかは模索したいと考えています。テレビと違って15秒・30秒という単位に固執することはありません。伝えたいメッセージに合わせた秒数のオリジナルCMの提案なども進めたいと思います」
また、キャッチアップサービス全体の課題としてコンテンツの拡充が挙げられる。現状の各社のコンテンツは有料配信などで2次利用を進めていたこともあり、どうしてもドラマ・バラエティに偏りがちだった。これからは、報道番組やスポーツにどのくらいのニーズがあるのか、確認のためにもトライしたいと龍宝氏は言う。
「特に、災害時の報道など緊急時のニュース同時配信のニーズは非常に高いと考えており、放送局が入手した様々な情報を伝達する手段として、積極的に検討すべきだと考えています」
そしてもう一つの課題が、ローカルコンテンツの有効利用だ。
「TVerは民放公式ポータルと言っていますが、在京キー5社のコンテンツが中心になっています。これからは、各系列局とも連携し、ローカルオリジナルコンテンツの全国展開のためのプラットフォームとしても利用していただき、そのようなコンテンツを見たい、というユーザーも楽しんでいただきたいと思っています」
しかし、ローカルコンテンツには系列局や権利の問題があり、簡単には実現しないことなので慎重に検討する必要があると龍宝氏は付け加えた。
■配信コンテンツがリアルタイム視聴に取って代わる可能性はあるのか?
現在は “見逃した視聴者を、リアルタイム視聴に還元すること”を目的としたサービスとして、権利者や制作者に対しても、キャッチアップ配信を理解してもらい始めたそうだが、そのような目的がスタートだったこともあり、制作者サイドからの要望がない限り、サービスサイドから“先出し”などの提案をする予定はないと言う。
ただ、ビジネスとしてある程度のスケールが出てきたら、配信オリジナルコンテンツの制作など、次のステップに進むことを検討する必要があると考えているようだ。有料SVODのサービスの広がりもあり、単純なキャッチアップだけでないコンテンツの工夫は必要になってくるだろう。
売上や収支の面で放送局が推進する配信ビジネスが現業の放送ビジネスに取って代わる可能性はあるかと尋ねると、龍宝氏ははっきりと否定した。
「放送局が制作した安心・安全なコンテンツを配信することがビジネスの大前提です。放送免許を持つ我々放送局だからこそできる、ビジネスモデルだと自負しています。その前提がこれまで培ってきた放送局としての信頼であり、その点を疎かにして、単純に現業に取って代わるということを考えることはできません」
龍宝氏は、TVerなどで視聴可能なキャッチアップサービスをあくまでも放送の広告ビジネスの補完サービスとして位置づけ、事業拡大を目指すべきだと言う。
「テレビという受像機だけでは捕捉しきれなくなったテレビコンテンツの利用者を、他のデバイスを用いていつでもどこでもキャッチし、その視聴をマネタイズすること。これは、これまで経験してきたDVDなどのビジネスでの2次利用という概念よりも1.5次的な考え方になるのかもしれません。より放送本体に近いマネタイズの方法の研究も必要になると考えています」
■キャッチアップ配信はテレビコンテンツに好影響与えるスパイス
最後に、配信をビジネスとして、今後どのようにしていきたいのかを龍宝氏にインタビューしてみると、「地上波セールスの補完として、テレビ局の売上の数%を占めるようになれば成功だと思います」――つまり、若年層ターゲットリーチをこのサービスで補完できれば、結果的にはテレビコンテンツに接触するユーザーを拡大することにつながると龍宝氏は読んでいる。
「配信ビジネスは、あくまでもリアルタイムビジネスに好影響を与えるスパイスのようなもの。テレビを放送で見ることができなくなった生活者に対して、テレビコンテンツに接触するポイント増やしていくことが我々の役目です。そして、それをすべてマネタイズできるようすることを今後はさらに拡大していきたいです」
TVerがトライしているサービスの目的は、テレビを見なくなった層へもテレビコンテンツと接触できる機会を提供することだ。
「録画視聴や違法配信でなく、放送局が作る安心・安全な視聴環境で、いつでも・どこでもテレビコンテンツを楽しむ環境の整備が最大の目標になります。そして、それをマネタイズし、放送局の新しいビジネスモデルを構築することも重要です。これからもチャレンジを続け、ユーザーの皆様や広告主の皆様に応援していただけるサービスとして拡大させていきたいと考えています」
[vol.1]キャッチアップ配信「TVer」が“トライアル”から‟本格稼働”へ
[vol.3]キャッチアップ配信「TVer」はリアルタイム視聴に好影響を与えるのか?
――TBSテレビメディア戦略室長 龍宝正峰氏プロフィール
1987年に株式会社東京放送に入社、以来営業セクションでキャリアを積み、2013年から編成局、2016年から現職。
テレビドラマの初回はできるだけ全局チェックしたい派。オフはできるだけ仕事に関係のない本を読みたいと思っており、つい最近は「楊令伝」(北方謙三)を2回読破。基本、歴史モノや推理小説を好む。日本メーカーを応援したいという気持ちから、スマホは富士通のAndroid。よく見るwebサイトはニュース系アプリ、一方生粋の阪神ファンなのでプロ野球情報サイトは必須。仕事のモットーは「人の意見を尊重すること」。特に若い人たちの意見に耳を傾けることを大事にしています。